変見自在 高山正之
(週刊新潮4月24日号)


反捕鯨の意味


 「アメリカ人」と一括りにできるアメリカ人はいない、と米国に心酔する人たちはよく言う。


 米国は個人主義が徹底していて十人十色、ステレオタイプ化できるような共通点すらない、と言う。


 それでも、やたらでかい声で喋るとか、他人には口うるさいが、我が振りは見ないとか。直截に「白い支那人」とか、何となしイメージでき


 それを集約するとハーマン・メルヴィルの言う「米国人こそ現代のイスラエルびと」になるか。


 実際、米国人はユダヤ人の歴史に自分たちを重ねて歴史を創ってきた。

 ユダヤの民は神から約束の地カナンを与えられた。

 米国人は新大陸を神の約束の地に見立てた。

 カナンの地には先住の民、ミディアンびととかペリシテびとがいた。神は彼らを倒し、土地も財産も奪い、彼らの崇める神殿を潰してしまえ


 「男は幼な子に至るまで殺せ。男を知った女たちも殺せ。処女はお前らが弄ぶがいい」(民数記)


 神は一切の仮借も禁じた。


 「もし彼らを許し、その地に生かしておけば、彼らはやがて目の中の棘、脇腹の茨となってお前たちを苦しめるからだ」(同)


 かくて大殺戮の果てにイスラエルびとはカナンの地を我がものとし、ソロモン王の栄華を実現した。


 米国人はそれに倣い、親切に七面鳥を与えてくれたインディアンを倒し、南のアパッチも北のスーも皆殺しにして土地を奪った。


 それでも殺しきれなかった先住民は「脇腹の茨」にならないよう遠くオクラホマやネバダの砂漠の居留地に追いやられた。


 彼らの神は奴隷制を許した。アブラハムは女奴隷ハガルを孕ませアラブ人の祖イスマエルを産ませた。


 妻サラが怒ったので奴隷の母子を追い出した。アラブ人がイスラエルびとを嫌う理由の一つがこれだ。


 米国人もこれに倣いアフリカから奴隷を入れた。トーマス・ジェファーソンはアブラハムを真似て黒人奴隷サリー・ヘミングスを性の奴隷に


 現代の選民は近代社会に奴隷制を持ち込み、先住民のジェノサイドをやり、バイソンもロッキー狼も旅行バトも根絶やしにした。


 メルヴィルはそのおぞましい行為を「現代のイスラエルびと」と呼ぶことで美しく装ってしまった。


 彼らはまた海に出てインディアンをやったのと同じに鯨をほぼ絶滅させた。


 リンカーンはスー族の戦士38人を舞台に載せ、せえので吊るした。鯨も同じように舷側に吊るして、リンゴを剥く要領で皮下脂肪層を生き


 彼らは歯止めを知らない。大西洋の鯨を取り尽くすと太平洋に出て乱獲し、日本海にまで入り込んだ。


 その途次、金華山沖でメルヴィルは白い抹香鯨を見て『白鯨』を書いた。


 鯨油はきめが細かく、加えてどんな寒冷地でも凍ることがなかった。


 ために最高の潤滑油として米自動車産業界は20世紀後半まで最大の顧客だった。NASAもハッブル宇宙望遠鏡やボイジャーなどに鯨油を


 ただ宇宙は別にして70年代には安い合成油に取って代わられ、同時に米国は反捕鯨に転じた。


 主張は「人類に近い高等生物を殺すな」。


 でも昨日まで人類の方をさんざ殺してきた米国が言うのもなんかヘンだ。


 違和感のあるきれいごとの矛先は、なぜか日本に向いてきた。


 IWC総会では米豪のNPOが日本代表に赤インクをかけたり、日章旗を焼いたり。嫌がらせの果ては国際司法裁判所への提訴。米豪主導の


 鯨を放置すれば世界の魚がいなくなるという日本の主張は潰された。


 判決が出てすぐ豪首相アボットと米通商代表フロマンがやってきた。


 主張は同じ。世界の魚は鯨に食わせ、人類は牛肉を食えばいい。


 米豪は牛肉輸出国。反捕鯨とは肉屋の販促だったとは知らなかった。




いすけ屋


 オバマが来ているときに、このコラムも少しばかり躊躇したが、アメリカという国を冷静に考えてもらいたい為にあえて紹介した。勿論、現在のアメリカが今でもこうだからというつもりは毛頭もない。しかし、戦後68年、日本は盲目的にアメリカに従ってきたが、そろそろ脱皮する時期にきているのではないか。


 日米首脳の会見では確かに、「尖閣諸島も日米安保第5条の範囲内である」とオバマの口から直々に言ってもらった。しかし、これを喜んでいるようでは駄目である。勿論この言質は大事だが、日本独自で中国の侵略に対抗できるように準備しておくのが基本中の基本である。テレビでは、記者会見で安倍さんが「バラク」と呼んでいるのに、オバマは「安倍総理大臣」とよび、二人の仲は良くないと、勝手に想像していた。誰かは「オバマは怒っている」とまで発言していた。


 しかし昨日の鮨屋では「シンゾー」とファーストネームで呼んでいたし、お互い「バラク」「シンゾー」の仲だった。オバマはビジネスライクな人で実直で真面目だから、記者会見のような公式の場では「シンゾー」とは呼べないだけだと、私は思う。ファーストネームで呼ばなかっただけで、オバマは怒っていると断定するのはいかがなものか。今のところ、TPPでもあまり妥協はしていないようだし、まあ、安倍政権は頑張っている。それで少々オバマが怒っているのなら、結構なことだ。なんならもっと怒らせてもいい。


 ホルモン過剰のブタ肉がいくら安くなっても、俺は買わないからな!遺伝子操作された農作物も御免だ。食料もエネルギーも自給率100%を目指すのが、国政を預かる者の責務だろ。


判決は「南氷洋の捕鯨はダメ」ときた。
使っている。
ながら剥ぎ取り、海に捨てた。
した。
と命じた。
る姿はある。