沈没事故の最前線・珍島を現地リポート
(日刊ゲンダイ04月23日)


 韓国の旅客船沈没事故は発生から1週間が過ぎた。引き揚げられた遺体は、損傷が激しいのか、取り違いが起きていて、中には寸前で違いに気づき、葬儀を中止するケースもあったという。メディアが伝えない救出の最前線基地、珍島の現状を、ジャーナリスト・太刀川正樹氏が現地から報告する。


無神経な日本の報道陣をCNNが制止


 珍島港に入って真っ先に目にしたのは、港近くの食堂に殺到した日本人マスコミだった。日本への中継が一段落すると、各社のスタッフがどっと食堂に訪れ、現地の人が「日本人が独占して、俺たちが食事できない!」と食堂の主人に怒鳴っていたのだ。


 食堂でのやりとりから、各社のスタッフは必ずしも全員、ハングルを知っているわけではないらしい。それを露呈したのが、港に張り出された死亡者リスト前でのひとコマだった。リストの端には、「写真は撮らないで。家族が嫌がります」と書かれていたが、日本のテレビクルーはお構いなしに家族の顔にカメラを向ける。無神経な振る舞いは、海外メディアからも批判の的だ。


 港で海を眺めていた女性2人は、家族が帰ってこないことに、悲嘆に暮れていたのだろう。肩から毛布にくるまって、冷たい海風に耐える姿が印象的で、韓国のテレビ局や米CNNスタッフと一緒に私も遠巻きに見ていた。すると、日本のあるTV局は韓国メディアより前に出て、カメラとマイクを彼女たちに向けた。


 そのスタッフの問いかけは「日本の安倍首相の支援の申し出を断った朴大統領をどう思うか?」。その瞬間、2人の顔色が変わった。慌てて制止したのは、CNNのスタッフだった。


 家族が寝泊まりする体育館では造船会社やカトリック団体など20以上の団体が靴下や歯ブラシ、ブリーフ、ブラジャー、パンティーなどを無料で提供。炊き出しもしている。韓国メディアは館内の観客席部分にシートや毛布を敷いて24時間態勢でリポートを続けているが、日本メディアは夜の中継が終わると、体育館から1時間ほど離れたホテルに引き揚げている。



いすけ屋


 事故の報道で最初の頃、被害者の肉親と思われる人がマイクを持って泣き叫んでいた。わざわざマイクをもって叫んでも、どこか違和感がある。韓国得意の「ヤラセ」かな、と思っていたが、この記事を見ると、どうも無神経な日本の報道陣の仕業のようだ。これは許せない。始めは救出劇に手間取る韓国をバカにしていたが、日本の報道陣がこれでは、むしろ韓国に誤らねばならない。


 たしかに彼らには未熟な点がいっぱいあって、まさに人災の可能性が高まってきたが、それはそれ。被害者家族にとっては、たまったものではないだろう。これは国内の災害のときでもそうだが、むやみに被害者家族にマイクを向けるものではない。取材のマナーに関しては、日本も韓国と同レベルだ。


 ASEAN諸国がアメリカを抜いて日本が一番頼りになると言ってくれている。すべての面で彼らの期待に応えられるような国でなければならないのに、このような汚点は聞きたくない。メディア関係者諸君、心して欲しい。