いすけ屋


 島田紳助引退劇はショックであった。やはりあそこまで高い話術を持ったタレントは、彼を除いて皆無だろう。適当に毒があり、愛があり、いっぱい引き出しのある笑いは、いつも感心させられたものだ。引退理由が、昔、右翼の街宣車とイザコザを興し、その解決を親友の渡辺二郎元WBA・WBC世界スーパーフライ級チャンピオンに頼んだところ、山口組系極心連合会・橋本弘文会長に取入ってくれて、解決して貰った。


 恐らく、その右翼街宣車の連中の嫌がらせは相当のものであったのだろう。会社も放送局も警察も助けてくれず、どうしていいか分からず途方に暮れていた時、その人のひと言で収まった。紳助さんは感謝の心をもって橋本弘文会長にお礼を言うため、手紙に書いたのだと思う。会長も紳助の人柄に好意をもったのだろう。


 マスコミは「黒い交際」とか書いて、直筆の手紙が出てきたとか一緒に写っている写真が出てきたと言って大騒ぎしている。いかにも何か悪さをしていたような扱いであるが、なんか違うような気がする。警察やマスコミは「暴力団」という言葉でひとくくりにするが、上層部と下っ端では行動も人間性も態度もピンキリである。一般人を脅したりして金を取るのは、極道の世界では許されない。それをするのは、下っ端のチンピラである。


 べつに私がこの世界の人と付き合ってるわけではないが、「塀の中の懲りない面々」の安倍譲二氏の著書から伝わってくるあちらの世界の様子が、そのままであるなら、けんかっ早い連中のリーダーになるような人間は、やはり人の上に立つ出来た人間だろうと思う。


 その人間性に惚れた紳助さんが、その人に傾中していっても不思議はない。近寄る紳助さんにその人は「あまり密接にならない方がいい」と、制したそうである。ご自分の立場、紳助さんの立場を充分わきまえておられた。それでも、男が男に惚れたから、紳助さんは現在の地位を捨ててまで、橋本会長をとったというのが、今回の引退劇なんだと思う。


 それを、まだ何かあるような言い回しで、この際儲けようとする三流誌が跋扈している。しかし、芸能界は所詮水商売だ。必ずどっかに、闇の世界との接点があるはずだ。叩けばいくらでも埃は出てくる。警察は定期的に、めぼしい芸能人をとりあげ、警告を発している。今回、相撲の次は芸能界だぞというサインだろう。そういう警察だって、裏ではその世界とどんな取引をやっているやら・・・  




溝口敦の切り込み時評   
ヤクザを選んだ紳助がこれから歩む茨の道
   
(日刊ゲンダイ8月29日)


 8月23日、島田紳助は暴力団との交際を理由に芸能界から引退したが、今後一般人になるからといって、平坦な一本道が続くわけではない。むしろこれから、紳助の本当の苦難が始まると予想される。


 なぜなのか――。

 吉本興業にすれば、紳助に引退してもらいたくなかった。まだ売り物になるタレントだからだ。しかし大阪府警からの情報は、紳助と山口組系極心連合会・橋本弘文会長との交際を示していた。


 吉本興業は紳助を呼び出し、事情をただすしかなかった。できるなら否定してもらいたかったはずだが、紳助は情報はウソだと否定しなかった。それならそれで、今後橋本会長との交際を絶つと言ってほしかった。それなら2ヵ月程度の謹慎で再び芸能界に復帰できる。


 しかし紳助は今後、極心連合会・橋本会長と絶交するとは約束できなかった。十数年前、右翼が紳助の発言に怒り、街宣車を出したとき、丸く収めてくれたのが橋本会長だからだ。紳助の心情としては「大恩ある橋本会長に手のひら返しはできない」といったものだったろうが、もう一つ、恐怖心も働いたはずだ。


 絶交を宣言すれば、橋本会長が間違いなく怒る。今まで庇護してくれた人間が紳助の態度の急変に「汚い野郎だ」と、敵に変わりかねない。このことがなにより恐ろしい。


 つまり紳助は芸能人としての生活を取るか、橋本会長との交際の継続を取るか、二つに一つの岐路に立だされた。結果として選んだのが芸能界引退であり、一般人として心置きなく橋本会長と交際を続ける道である。


 幸か不幸か紳助には40億と伝えられる蓄財もあり、事業家としても成功している。紳助か交際の継続を望んだ以上、橋本会長としては手厚く紳助を遇するにちがいない。渡辺二郎と同じく極心連合会の相談役に据えるかもしれないし、客分として迎えるかもしれない。


 極心連合会は山口組の直系組の中でも有力組だが、今はどの組も経済が詰まっている。島田紳助は芸能人でなく、極心連合会に理解のある事業家である。そういう人間からカネを融通してもらうことを遠慮する理由はない。まして紳助には十数年前の貸しがあるのだ。


 紳助か強調するように橋本会長が善意の人であっても、暴力団経済はこう動いていく。つまり紳助は暴力団世界の豊かな金庫になる。紳助がいかにカネに執着しようと、これに対抗する手段はない。自ら退くべき橋を焼き落とし、大阪府警も味方しないはずだからだ。
       (月曜掲載)