放射性廃棄物による健康増進   
T. D.ラッキー, PhD (有志グループ訳)


要約   


 従来の定説にとらわれず、哺乳類への全身的被曝から得た実証のみを考察すると、電離放射線(以下放射線と略記)が健康増進につながることは明白となる。この被曝増加の最善の源泉は、放射性廃棄物である。放射線量の不足は、ネズミやハツカネズミを含む様々な種に見られる。人間における放射線不足の実証は反論の余地がない。私達は、放射線という必須物質が部分的に不足している中で、生活している。慢性的被曝線量の増加による健康増進については簡単に概観する。核反応施設からの廃棄物を利用した安全な放射線による健康補助が研究されている。


はじめに  


 ホルミシスとは、どのような物質も少量摂取することによって、あらゆる組織が活性化することである。低量の摂取は、生物学的に有用である。重複している場合もあるが、放射線への被曝増加がもたらす健康増進については、3000以上の報告書がある(図1)。


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 人間や実験動物による全身的な研究結果と、極小有機体や細胞培養実験による結果を、区別することが重要である。バクテリアの培養では、1週間で、1000以上の実験をすることができる。これらによって得られる結論は、人間の生理学に関しては、全く意味がない。尐量の照射が正常な人間や実験動物にとって有害であるということを示す確かなデータは皆無である。


 私達を取り巻く環境の主要な構成物質としての放射線を受け入れる事によって、私達は、自然と調和して生活することができる。他のすべてのものと同様に、多量の摂取は有害である。百年前には、皮膚の紅疹が過度の放射線被曝の主要な基準であった。紫外線に当たり過ぎることから生じるこの害は、イギリス人が、毎年春に地中海の海岸に群れる時に、顕著である。

 健康増進のためには、私達の生活における放射線の有効な役割を理解する必要がある。健康増進とは、1)最小の細菌感染、2)老化に先立つガンが尐なくなること、3)平均寿命の大幅な伸び、である。放射線量の増加に伴うガン死亡率の低下を示すデータは、最も説得力がある。


放射線量不足  


 栄養とは、私達が摂取する食物と、私達を取り巻く環境を含む。生命を維持するために必須の化学的、物理的物質には、類似した特徴がある。食物から私達は、約40種類の必須栄養素(ビタミン類、無機物およびアミノ酸)を摂取している。私達はまた、酸素、重力、気温、光、そして放射線を必要とする。これらの物質のそれぞれに対する私達の関係は、ひとつの曲線で表すことができる(グラフ1)。


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 波線と「環境」の交点が、通常の状態を示している。この量以下では、不足になり、死に至る。環境水準以上であれば、「健康」と記された広い範囲によって示されているように、有益である。ビタミン類と無機物では、最適値は、しばしば必要最少量の2~20倍に設定されている。限界値(閾値)は、それを超えると疾患や死亡が予想されるような場合にのみ設定される。


 放射線量不足の根拠は、表1にまとめられている。有機体は、系統発生順に並べられている。様々な効果と、観察期間は、異なる研究者によって検証された。11番目の人間を除いて、大部分の実験は、環境レベルの放射線量の約10分の1の照射で実施された。非放射性カリウム39は、7番、9番、10番のための実験に使われた。データで証明されたガンによる死亡率の減少は、人間の場合にも当てはまるものと思われる。この実証は放射線が必須要素であることを示している。

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1. エスケリシア コリ 大腸菌 これらの実験は、アルゴン国立研究所(ANL)で、環境レベルの電離放射線の状態で、培養基として非放射性カリウム39Kを用いて実施された。(ラッキー、1983年)
2. マスティゴクラドゥス ラミノスス 鞭毛藻類 実験2番、4番、8番は、フランスのレオネ・マシブ山の地下8,000フィートにあるシムロントンネルの真ん中にある照明をした部屋の中で、10センチの厚さの鋼鉄の箱に入れて行った(ユーガスター、1964年)。
3. シネココクス リヴィドウス 照明をした地上の実験室で、厚さ10センチの鉛の箱の中に入れた時、電離放射線の水準は、対照群の17%に過ぎなかった(プラネル、1987年)。
4. ホルデウム ボヌス 条件は2番で述べられたものである(ユーガスター、1964年)。
5. ゾウリムシ テトラウレリア 条件は3番と同様のもので、照明はなく、バクテリアを給餌した。
6. ゾウリムシ ブルサリア 培養は地上の実験室で、細菌培養器に入れた10センチ幅の鉛の箱の中で維持された(ラッキーほか、1978年)。培養基は殺菌消毒した小麦の抽出物で、食物源として正体不詳のバクテリアを含んでいた。
7. テトラヒメナ ピリフォルミス 環境基準放射線は、21センチ幅の古い鋼鉄製壁に囲まれた部屋の中、1センチ幅の鉛の箱の中で減尐された。この実験は、アラゴン国立研究所で、3メートルの土と21センチの特殊なセメント層の下で実施された。この原生動物の純粋培養には、化学的に規定された培養基を非放射性塩化カリウム39と低量のラドンを含有する空気と水を一緒に与えた。
8. 海水性エビ アルテミア サリナ 実験条件は、2番で示されたものである(ユーガスター、1964年)。
9. ラットゥス ラットゥス ネズミは9センチの幅の鉛の箱の中、環境基準の放射線の約15%まで減尐させた放射線環境の中で飼育された。離乳したネズミは、天然の放射性塩化カリウムの代わりに、塩化カリウム39を給餌した(クジン、1994年)。
10. ムス種 クジンと助手達は、若いハツカネズミを環境放射線の約15%の放射線の中で飼育した。(低量ラドンを用い、9センチ幅の鉛の箱の中で)天然の放射性塩化カリウムの代わりに、塩化カリウム39を含む餌を与えた(ルダとクジン、1991年、クジン、1994年)。
11. ホモ サピエンス 重要な文献(ラッキー、2007年)。



 このことが、もう一つの疑問を提起する。もし、私達が、環境レベル以上の放射線を受けたらどうなるのか。地球にとって環境レベルの放射線は、年間3ミリシーベルトである(モルタザビとカラム、2005年)。(訳者注:現在一般的には世界平均2.4ミリシーベルトとされている)放射線のグラフは、閾値、つまり環境レベルのほぼ3000倍までは、どれ程線量が増加しても、私達の健康は増進することを示している(グラフ2)。


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残念なことに、放射線生物学に関する文献の大半は、有益な物質としての放射線の効用を全く無視して、放射線に対する恐怖と、最尐限度の被曝可能線量を述べるばかりである。LNT仮説(訳者注:高放射線での害が低放射線まで連続的に減少するという閾値を認めない仮設)を信奉する人達は、放射線がもたらす効用については、全く考えていない。多くの放射線生物学者達は、無視しても差し支えのない放射線から私達を守るために、報酬を得ているのである。私達の主要な関心は、健康である。


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表2 放射線照射増加の効果   

増加              減少

 発達              感染症
生殖機能           不妊
 免疫              心臓病
 対放射線抵抗力       肺疾患
 精神的鋭敏さ        ガン死
 平均寿命          早産死



放射線がもたらす健康増進   


 低量の放射線を被曝した人の、成長、平均寿命、癌による死亡率の低下に関する諸研究によって、低放射線は健康増進に寄与することが証明されている(グラフ3)。これは、私達が部分的に放射線量不足の状態で生きているという有力な証拠である。線量がもう少し増加すれば、私達の健康は増進される。この理論は、放射線をより多量に被曝しながら暮らしている世界中の人々からの130の報告によって支持されている(ラッキー、2007年)。どの位が適切な線量なのか。最適値はいくらか。人からの情報が全くない中では、「実験有機体からの実験データを活用しなければならない」(ベイアーⅢ世、1980年)。


 ハツカネズミと人における中性子への急性被曝による発ガン性のデータがグラフ4.で比較されている(ラッキー、1991年)。それぞれの閾値が、ほぼ一致していることに注目すべきである。慢性的放射線被曝による成長、生殖機能、平均寿命、発癌予防への効果を、ヒトネズミ類について観察した研究データをまとめると(グラフ5)、明らかに最適値は年間60ミリシーベルトであることがわかる。大部分の栄養素にとって、この最適値は健康に最低限度必要なものと考えられるであろう。栄養学者は通常、推奨すべき摂取量は、尐なくともこの量の2倍、年間100ミリシーベルト以上を提案するであろう。

 グラフ5の横座標は、計算尺で表現されている。生理学的効果は、摂取量の対数に正比例している。従ってこの結果は、直線になる。以前に用いられた虹型の曲線で表された効果は、摂取量に比例していた。従って、大部分の放射線生物学者のデータは、曲線で表されている。


放射線量の増加がもたらす恩恵   


 放射線量増加がもたらす恩恵は、表2に列記されている。これらの項目のすべてがこれまでに検証されている(ラッキー、1991年)。免疫力の増加とガンによる死亡率の減尐を例外として1991年以降新たな情報は殆ど進展していない。免疫力に対する増加線量の効果は


     ・ 白血球の増加
     ・ 様々な白血球の働きの活性化
     ・ 細胞分泌と酵素の働きの活性化
     ・ 抗体製造の増加
     ・ 感染の減尐
     ・ 傷の治癒の早期化
     ・ 高線量の被曝に対する防護




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 二つの例が、癌死亡率に対する低放射線の効用を示している(ラッキー、1999年)。観察した労働者の中に重複するものもいるが、8つの研究(グラフ6)は、核施設労働者のほぼ800万人年と、一般平均サンプルの約700万人年のデータを含んでいる。放射線に被曝した核施設労働者のガン死亡率は、注意深く選別された一般平均サンプルのそれの52%に過ぎなかった。(多くの疫学的変動要因を管理することによって、「健康労働者効果」を排除した。)8つの研究のいずれもが、被曝した放射線量に比例してガン死亡率が減尐していることを示していた。この概念は、イランのラムサールに居住している人々によって実証されている。この地方の住民は、世界のどの都市よりも環境放射線量が多いのである。実際、世界平均の10~100倍の放射線量を受けている。ラムサールでは、ガンは希な病気である(ラッキー、2007年)。



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 二つ目の例は、コーエン博士の優れた研究である(グラフ7)。それによると、アメリカ合衆国国民の肺ガン死亡率は、家庭内のラドンの量が増加するのに正比例して減尐した(コーエン、1995年)。この研究は、約70万世帯を網羅していた。これは歴史によって実証されている。ドイツのサクソニーで喫煙が始まる前は、肺ガンによる死亡は無視できる程度のものだった。そこでのラドンの水準は、米国環境保護局が勧告した許容量の100倍に達している(ラッキー、2007年)。さらに、多くの実例が挙げられている(ラッキー、1999年、2008年)。


 実際に提示された証拠に基づき、私達はいくつかの事実を確認することができる。

1)放射線は生命にとって必須の物質である。
2)私達は放射線が部分的に不足している状態で生きている。
3)健康増進のためには、もっと多量の放射線が必要である。

 本当の問題は、いかにして安全により多量の放射線を提供するかである。健康増進のためには、自然界に存在する年間3ミリシーベルトの20倍以上の線量が必要である(ラッキー、2007年)。これは健康物理学学会の会報のロゴ「放射線保護ジャーナル」の意味を逆にすることになる。取るに足らない微量の放射線量に対する恐怖やLNT仮説の議論ではなく、健康物理学者達には、健康増進のために放射線を安全に補給する任務が必要とされる。


安全な放射線補給    


 安全な電離放射線の補給の例は次のようなものである。


Ⅰ、一般的な活動 


・ 地下室部から家の中へラドンを取り込むために、送風機を設置する。
・ 使用済み原子力発電所で、会議を開いたり、学校として利用する。
・ 年間1ミリシーベルトの線量を持つ会議室を設置するように、新規の原子力発電施設の設計を考える。
・ ウラニウムを黄色や橙色の色素として陶磁器類に用いる。
・ 日本のいくつかのホテルで実施されているように、病院のラドン室用としてモナズ石を用いる。
・ 使用済みのウラニウムやその他の放射性金属を彫刻に用いる。
・ 寝室のベッド近くの棚の上に黄色い花崗岩を置く。


Ⅱ、医療的行為 

・ ガン、壊疽、感染症の治療に低放射線を用いる。
・ 放射性温泉療法の処方箋を活用する。
・ 病院内に低放射線室を設置する。
・ 回復期病棟の周辺に、大きな岩石や彫刻を備えた放射線公園を設置する。


Ⅲ、放射性廃棄物の活用  

・ 放射性製造工場の廃棄物を再利用する。
・ 建造物の放射性廃棄物のいくつかを利用する。
・ レンガや肥料に石炭の燃え殻(放射性廃棄物)を利用する。
・ 新築家屋の鉄筋用に、使用済みコバルト製品を再利用する。


 健康増進のための安全な放射線の補給は、肝臓―脾臓系統に向けて行うべきである。皮膚に接触した場合、少し距離をおけば安全である多くの放射性核種は、皮膚紅班やガンを過度のアルファおよび・またはベータ放射線によって引き起こす可能性がある。従って、放射性ブレスレットやネックレスは推奨できない。小さな彫刻や岩石は室内で使用することができる。放射性核種によっては、いくつかの岩石や彫刻はまた別の恩恵ももたらす。それらはラドンの源泉になる。使い古された燃料格納容器は、大きな彫刻として取り替えられる。有害となる閾値は、放射線の環境水準の1000倍以上であるから、短期の接触は無害である。しかし、小供達は、放射性ポニー像に毎日2~3分以上は乗るべきではない。


結論   


 提示された根拠から導き出される結論は、殆ど知られていない放射性廃棄物を利用した健康増進に関する情報を、役立たせるための指針となる。結論は次の通りである。

・ 放射性廃棄物はやっかいな問題ではなく、極めて重要な問題に対する解決策である。
・ 私達は放射線という必要要素が不足した状態で生きている。
・ 健康増進のゴールは、ガンと感染症の減尐にある。
・ 放射線の増加は、平均寿命をさらに延ばしてくれるであろう。
・ 放射線廃棄物は、健康増進のための放射線源を提供してくれる。


 2007年11月14日 横浜パシフィコにおける「放射線ホルミシスシンポジウム」における講演から。


参考文献   


ベイアーⅢ世著「電離放射線の低量被曝による人への影響」 国立学術出版、ワシントン、1980年
BLコーエン著「ラドン崩壊物質の吸引による放射性発ガン性についてのLNT仮説の検証」 健康物理学 第68号、157~174頁 1995年
JCユーガスター著「自然界の放射線環境の概念に関する放射線下での実験」 航空宇宙医学 35号 524~562頁 1964年
AMクジン著「ガンマ放射線の低量被曝の効果の指標」 放射線生物学 24号 415~416頁 1984年
AMクジン、VPクリマスカヤ共著「放射性同位元素カリウム40の動物の正常な発達に対する重要性」 ラディアツ、生物、放射線生態学 34号 73~78頁 1994年
TDラッキー著「テトラヘイメナ・ピリフォルミシに対する環境基準以下の放射線の影響」要約 第12回国際微生物学会、ミュンヘン、1978年
TDラッキー著「電離放射線のホルミシス」 CRC出版 ボカ・ラトン 1980年
TDラッキー著「塩化カリウム39の標本におけるE大腸菌の成長阻害要因」 年次報告書 ANL-83-100 70~76頁 アルゴン国立研究所 アルゴン 1983年
TDラッキー著「電離放射線は原生動物の生殖機能を促進する」放射線研究 108号 215~221頁 1986年
TDラッキー著「放射線ホルミシス」 CRC出版 ボカ・ラトン 1991年
TDラッキー著「電離放射線による栄養補給:挑発的仮説」栄養と癌 34号 1~11頁 1999年
TDラッキー著「電離放射線の実証された最適値と閾値」国際核法則ジャーナル 4号 378~409頁 2007年
TDラッキー著「放射線は多くの癌を防止する」国際核法則ジャーナル 2008年
SMJモルタザヴィ、PAカラム共著「イラン、ラムサール地方に見られる高線量の環境放射線の中で暮らす人々の間に顕著な放射線に対する抵抗力の強さ:私達は被曝許容線量を緩和することができるか」 JPマクローリン、SEシモポロス、Fスタインハウスラー共編 「自然界の放射線環境 第7巻」1141~1147頁、エルスヴィア、アムステルダム、2005年
Hプラネル、JPソレイユアヴー、Rティクサドー、Gリコイリー、Aカウンター、Fクロウテ、Cカラテレ、NYガービン共著「大気中の放射線あるいはごく低量のガンマ放射線への慢性的被曝がもたらす細胞増殖への影響」健康物理学 52号 571~578頁 1987年
VPルダ、AMクジン共著「成長中の子ネズミへのガンマ放射線照射によるホルミシスの出現」 放射線生物学会会報 31号 345~347頁 1991年


学術誌案内   


Health Phys http://journals.lww.com/health-physics/pages/default.aspx
Aerospace Med http://www.asma.org/
International Journal of Nuclear Law
http://www.inderscience.com/browse/index.php?journalID=93&year=2006&vol=1&issue=1
Dose-Response http://dose-response.com/ (国際ホルミシス学会会報)