(つづき)    


Journal of American Physicians and Surseons Volume 16 Numder 2 Summer 2011
電離放射線の生物学的効果: 日本に贈る一視点
T.D.ラッキー, PhD    (有志グループ訳)


急性被曝   


 急性放射線被曝の効果についての各種の結論は、一般的に原爆攻撃から生き残った日本人に関するデータに基づいている(図2)。 15 RERFは広島・長崎の生存者のガン死亡率を爆心地から3-10キロ離れていた人々(「市内対照群」)のそれと比較した。これらの対照群は原爆からある程度の放射線を浴び,多くが残留放射線が高い内に爆撃された地域に立ち入った。原爆生存者120,321人における総(全原因)死亡率が490mSV未満の線量において増加することはなかった。


 広島と長崎で10-19mSV被曝した生存者7,430人のガン死亡率は対照群のそれの68.5% (P<.01)であった。被曝線量200mSV未満の生存者28,423人(全生存者の69%)におけるガンによる死亡数は1,000人当り76.6であった(図2参照)。これは被曝を免れた広島の北西の村落居住者に係る相当数値,1,000人当り77,に近い。この「市外」対照群の1,000人当りガン死亡数がRERFの「市内」対照群のそれよりも大きかった――RERFはこの比較をしようとしない――ことに注目されたい。


 200mSV超の被曝例においては,線量の増加に呼応するガン死亡率の上昇が見られた。即ち,急性放射線被曝におけるZEP値は約200mSVであった。 200mSV超の被曝は放射線疾患の原因となった。


 放射線被曝の効果に関する更なる証拠が. 1954年3月,ビキニ環礁での水爆実験による放射性降下物を浴びた23人の若い日本人漁夫の事例から得られる。全員が重度の放射線疾患に罹った。アイゼンバッドの表12.1によると,全身被曝線量は170-590cSV(1,700-5,900mSV)であった。 甲状腺の被曝は300-1,000cSVに達した。最大線量の被曝者は被曝の206日後に死亡した。その他の人々はガンを患うことなく20年以上生存した。


図2.累積ガン死亡率。広島、長崎の生存者について推定被曝線量に対する1、000人当りのガン死亡率を示す。横座標の上の数値は各点ごとの人数(千人単位)、即ち線量≦Xを被曝した人の数を示す。水平の破線はRERFの「市内(爆心地から3-10km)対照群」を表わす。約lcSvの被曝者の死亡率はRERFの対照群におけるそれより有意に低い(P<.01)。直線は広島の北西に位置する諸村の住民のガン死亡率を表わす。



放射線被曝者のための推奨指針  


 上述の情報は、線量を異にする放射線の慢性又は急性被曝者の処置についての当面の指針を提供している。核事故あるいは核爆発後の推奨指針は最大多数の人々に最大の善をもたらすものである。急性放射線被曝者のための推奨指針には、通常、被曝以外の問題の考慮が含まれる。例えば心理的反応、肉体的能力不全、破片による負傷、食料・水・住居の不足など。


 急性被曝者用推奨指針での主たる問題は直接被曝による外傷である。これは原爆に起因する全傷害の約5%を占める。 推奨指針はまた、多数の体外及び体内放射性核種からの放射線被曝を含む。核爆発による全傷害の約10%がこれらの問題である。全体の80%は爆風と高熱を原因とする。これらのガイドラインの核事故の場合の効用は限定的である。


 放射線推奨指針は、体外照射源からの慢性的被曝者については比較的簡単である。 10 Gy/y (約1mGy/h)未満の体外放射線被曝者は、直ちにより重度の被曝者の救護に当ってよい。2-10mGy/hを長時間にわたって浴びた人々は要観察である。(日焼けのような)皮膚の紅潮は軽度の被曝過剰の徴候である。 11 -100mGy/h を長時間にわたって浴びた人々は放射線疾患の恐れがあり、加療を要する。 1Gy/h超だと重症の可能性が高い。 10Gy/h超ならホスピスでケアを受けるべきである。

 広島、長崎両市を総合したデータは100mSV未満の急性被曝者は負傷者や病人の救護に当らせるべきことを示している。 100-200mSVの被曝者は放射線疾患の治療が必要かもしれない。 200-600mSVなら即刻入院を要する。 600mSV超の人にはホスピスでのケアが望ましい。核爆発の線質係数(Q)は見直しが必要である。

(終わり)