International Dose-Response Society Dose-Response, 6:369-382, 2008
原爆の健康への効用  
トーマス・ラッキー(ミズーリ大学名誉教授) (有志グループ訳)


(続き)


考察


 本論文で取り上げた諸研究をみれば、急性の低線量放射線は目本の原爆生存者に生涯にわたって健康に寄与したことを示唆している。それぞれのグラフは放射線ホルミシス効果と、闇値を示していた。広島と長崎の人々が一瞬で浴びた放射線は、いわば放射線ワクチンに相当した。これは重要な概念を想起させる。これらのデータは、低線量放射線を一時的に浴びることはー(その後の)慢性的な照射の有る無しに関わらず一生涯の健康に効用があるということを示唆している。これまでは人間が慢性的に放射線を浴びることに注目されてきた。慢性的な照射と、一時的な照射とで放射線ホルミシス効果や闇値に違いがあるのかどうかという疑問は解明する必要がある。


 動物を使った調査によれば、慢性的な照射でも一時的な照射でも長期的な効果があることがわかった。(ラッキー、19 9 1)例えば、1)大量の電離放射線への抵抗力、2)傷の治癒が速いこと、3)DNAや細胞の修復力の改善、4)免疫力の強化、5)罹病率の低下 (特に感染疾患からの)、6)健全な子孫、7)死亡率の低下、8)平均寿命の伸び、などである。

 原爆の健康への効用に関する総括的な結果は電離放射線の不可欠性でと、我々にはその不可欠な物質が不足しているかもしれないという仮説を裏付けるものである。(ラッキー、1997、1999)放射性廃棄物は健康の為に容易に使用することができる放射線の源泉である。(ラッキー、2008 b)20世紀においては放射性廃棄物は大いなるやっかいものであった。21世紀においては、放射性廃棄物の再分配が健康増進への一つの解決策になるのである。


 原爆の害に関する誤った情報により、一般に信じられているLNTドグマが強固なものになった。それとは全く反対に、原爆の健康への効用というこの新しい知識により、低線量放射線への信頼及びその応用への道が開かれることにつながってしかるべきである。日本の原爆生存者に関する諸研究により、放射線量には人体に有効となるか有害となるかを隔てる闇値があることが明らかになった。闇値のどれもLNTドグマを否定している。これらのデータは、フランスの最も権威ある委員会の結論を確証している。「しかしながら、低線量放射線の領域においてLNT仮説を用いることは放射線生物学的知見と両立しない。」(オーレンゴほか、2 0 0 5)全ての放射線は有害であるという考えは間違っている。

 放射線への一時的被曝についての、数量的闇値をそれぞれのグラフに示した。総括では、放射線への一時的被曝の場合のラフな安全指標が示されている。長崎における低量の線エネルギー放射(LET)はプルトニウム爆弾からの主として高速中性子をほとんど伴わないカンマ一線であった。長崎の場合の平均闇値は1 6 0cGyであった。(グラフ。2a、2b、4a、5a参照) 広島のウラニウム爆弾の場合、有用な闇値の数値化は、高LET放射においてcGyを単位として用いていることの意味合いを放射線影響研究所が明らかにしたあとに待たねばならない。「原爆生存者の健康に与えた影響は、殆ど全てのケースにおいて長崎で被ばくした人々より、広島で被曝した人々のほうが過酷な影響を受けていた。」(近藤、1993)近藤博士はこの違いはウラニウム爆弾からの大量の中性子によるものではなかろうかと示唆している。広島の10のケースの研究の平均闇値は4 7 cSv であった。


 低線量放射線を浴びた日本の被曝生存者に一貫して健康への効用が見られるということにより、放射線を浴びた場合の治療優先順位について新しいカテゴリーを導入する必要があるかもしれない。いうまでもなく、心理的なトラウマと肉体的トラウマとは分けて考えなければならない。闇値より低い値の放射線しか浴びていない生存者は特別な治療は必要としない。彼らは、救護チームの助っ人となりうるのだ。



結論   


 日本の原爆生存者のうち一時的な低線量放射線を浴びた人に一様に見られる影響を理解すると、次の三つの結論が導かれる。

・一時的な放射線照射を受けたあとの健康に関する闇値は良く立証されている。
・一回の放射線照射により、生涯の健康増進が誘発される。
・新しい治療優先順位の考え方には放射線ホルミシス効果を取り入れるべきである。


(終了)



いすけ屋


 この論文は、広島・長崎被爆者の内、低線量被曝をうけた人々の60年後の健康状態から測った、統計データである。したがって、一回の低線量被曝により、被曝しなかった人より健康であるという結論が導き出されている。連続して被曝した場合についても研究論文が数多くあり、疫学的処理によって、低線量被曝は安全であり、むしろ健康にいいという結論も出ている。次回はそちらの方も引用したい。お楽しみに・・・。