救国の秘策がある8~丹羽春喜氏
 
2010-12-29 09:30:32 | 経済
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/


●政策実施で懸念される点は回避できる


 丹羽氏によれば「救国の秘策」を実施すれば多くの効果がある。だが、本当にそんなにうまくいくのかと、懸念が浮かぶだろう。主な懸念として5点について、丹羽氏の主張をまとめてみよう。


①クラウディング・アウト現象は生じず、マンデル=フレミング効果も生じない。


 財政政策の財源調達のために国債の市中消化が行なわれた場合、それによって民間資金が国庫に吸い上げられて金融市場が資金不足状況になり、国内金利の高騰や民間投資の減少が生じる。これをフリードマンは「クラウディング・アウト現象」という。銀行による貸ししぶり、貸しはがしが激化し、かえって景気を悪化させてしまうおそれがある。しかし、「政府の貨幣発行特権」の発動であれば、この現象は生じない。

 クラウディング・アウト現象が生じると、国内金利の高騰が円高を生じさせ、それが輸出の減少と景気回復の挫折をもたらす。これを「マンデル=フレミング効果」と呼ぶ。クラウディング・アウト現象が発生しなければ、マンデル=フレミング効果も発現しない。


②現金はそれほど増えない


 高度経済成長政策が実施されると、大量の紙幣が刷りまくられるのではないかという心配は、「無用」である。GDPの増加額に「マーシャルのk」(マクロ・ベースでの現金通貨流通速度の逆数)と呼ばれる係数を乗じた額として、現金通貨量の増加額は決まる。「マーシャルのk」の値は、だいたい0.08 ~ 0.16である。仮にGDPの水準が100兆円上昇しても、それに伴う現金通貨量の増加額は8~16兆円程度ですむ。心配するほど過大な量にはならない。

 また、現代では、あらゆる取り引きの大部分が電子決済される。それゆえ、「政府の貨幣発行特権」を発動し、政府支出がきわめて巨額に行なわれても、実際に紙幣が増刷されるのは比較的わずかの額ですむ。あとは「電子的な相殺勘定の記帳処理」ですまされる。


③過剰流動性は国債償還で防止できる


 政府の累積債務を削減するために国債の大量償還をすると、「過剰流動性」現象を引き起こすおそれがある。過剰流動性とは、運用対象を見つけられない余裕資金が、だぶつく現象である。それを防止するために、政府ないし日銀が、円高防止をかねて米国等の公債・社債を大量に買い、それとの等価交換で、日本政府発行の既発国債を政府ないし日銀の手元に回収すればよい。国内の投資家たちには代償として米国等の公債・社債を渡す。このようなやり方を適宜に併用すれば、「過剰流動性」問題を発生させずに巨額の既発国債を回収・償還できる。


④円高に打ち勝って円安にできる


 わが国の経済が、政府貨幣発行を財源とするケインズ的政策の断行によって急速に回復し、高度成長軌道に乗りはじめれば、外国の投資家が競ってわが国に投資しようとし、海外から、きわめて大量の資金がわが国に流入し、そのことが非常に大きな円高要因になる懸念がある。しかし、わが政府が③の国債償還方式を実施すれば、外国資金の大量流入による円高圧力に打ち勝って、むしろ、かなりの円安をもたらすことが可能となり、そのことによって、わが国は産業の「空洞化」の悪夢から解放されうる。


⑤歯止めもかけられる


 総需要政策を行なう場合、政策の不十分や、上方あるいは下方への暴走を防止するための「歯止め」が要る。この「歯止め」は、「国民経済予算」の制度を確立することによって行なわれるべきである。「国民経済予算」の制度とは、デフレ・ギャップやインフレ・ギャップを常にモニターしつつ、それに立脚して年々の総需要政策を合理的に国会で審議・決定するという制度である。この制度を確立すれば、歯止めをかけられる。市場経済に「国民経済予算」の方式を結び合わせた制度こそが、「人智のおよぶかぎり、最善の経済システム」である、と丹羽氏は説く。


 以上が、丹羽春喜氏が提唱する「救国の秘策」の概要である。


●実行には、日本人の精神的な団結が必要
 
 デフレ下における積極財政を説くエコノミストは、丹羽氏以外にもいる。私が別稿で紹介した宍戸駿太郎氏、菊池英博氏、三橋貴明氏らがそうである。デフレ下における積極財政を説く点で、丹羽氏と彼らは共通する。最も大きな違いは、財源の調達方法である。宍戸氏、菊池氏、三橋氏らは、主たる財源を国債の発行に求める。丹羽氏は、国債の発行はほぼ限界に来ているとして、財源の調達は政府貨幣の発行によるべしと説く。国債発行と政府貨幣のどちらがよいかという違いである。


 私は、別稿に掲げたた菊池英博氏の「日本復活5ヵ年計画」を注目すべき提案と評価している。しかし、国債の発行を続ける限り、いかに経済成長をし、国民負担率は下がったとしても、利払いはつきまとう。いつかは償還・回収しなければならない。永久債という手もあるが、これも利払いは続く。また永久債の所有者と非所有者の格差が固定される。それゆえ、丹羽氏が提唱する政府が貨幣発行特権を発動して日本経済を再興するという政策は、国債発行にまさる上策だと思う。ただし、この政策は巨大なデフレ・ギャップが存在し、生産能力に余裕のあるうちに実行しないと、実行可能な条件を失う。政府が愚かな政策を続けていると、またとない条件を自ら潰してしまう。

 日本は財政悪化、少子高齢化、人口減少の中で復活をかけた経済政策を行なわなければならない。策を得ず、時を失えば、日本は確実に衰退する。

 起死回生の政策は、既に提案されている。国債の大量発行による積極財政を行うには、国民の精神的な団結を必要とする。政府貨幣の発行は、国債発行の場合以上に、強い団結を要する。日本人が日本精神を取り戻し、国民一丸となって取り組まなければ、世界のどこの国もやったことのない大規模な復興政策は、成功できない。また、国家指導者には、政策への国民の理解を得る努力をし、不退転の決意で政策を断行する強いリーダーシップが求められる。日本人の覚醒と覚悟が、日本の将来を決める。


(ここではとりあえず終了する。続きは 「ほそかわ・かずひこのBLOG」で・・)



いすけ屋


 ここまで「ほそかわ・かずひこのBLOG」から長文引用させていただいた。細川先生に深く感謝したい。

http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/


 私が自民党政権時代から、素人の分際とは言え、「経済政策批判」を続けてきたのは、丹羽先生のこの理論を多少なりとも知っていたからである。また、ポール・クルーグマン博士の「恐慌の罠」や、リチャード・クー氏の「日本経済生か死かの選択」、その他多くの経済図書を読むにつけ、また直接銀行と付き合ってきた関係で、バブル崩壊以前、以後、そして小泉政権以後の銀行の対応等から、「不景気は政府が作っているな」と実感したからである。その最たる愚策が、時機を得ない財政再建政策であり、これが更なる財政赤字を増やして来た。


 つまり金融庁が不良債権に過度に目を光らせ、貸し渋りを指導し、国も緊縮財政で水道の元栓を閉めて、市場での流動性を低下せしめ、企業の投資マインドを冷却させてきたのである。財務相は「国の借金が、国民一人当たり700万円を超えた」とか、財政事情を家計に置き換えて、「収入が40万しか無いのに支出が80万で家の借金が1000万もあるんですよ」と国民を脅かす。厚労省は厚労省で、「あと20年で年金制度は破綻する」とか嘘を平気でリークする。


 これでは給料を減らされ財布のひもが固くなっている庶民は、ますます守りに入るのは当たり前だ。デフレスパイラルの構成を、政府が演出しているとしか思えない。そもそもマクロの問題をミクロ経済に置き換える時点で間違っている。減税しても税収が増えたりするのは、マクロ経済のなせる技なのだ。


 財政再建は大事である。しかしその前にやらねばならぬ事は「デフレ脱出」である。歴代政府はこの両方を同時にやろうとしてきたから、ことごとく失敗したのだ。そろそろ経験に学んでもらいたいものである。一旦、財政再建は置いといて、景気回復に集中することこそ、重要である。日本中の超優秀人が集まる財務省官僚なら、いま増税すればどんなことになるかぐらい、分かっているはずだ。なのに国民を脅して、消費税アップは仕方がないと、諦めさせる手口は詐欺に等しい。


 丹羽理論を馬鹿にするエコノミストも多いが、彼等の経済学ベースは「新自由主義」であり「市場原理主義」である。いわゆるフリードマン派であり、丹羽先生のようなケイジアンとは主張を真っ向から対比させている。しかしすでに勝負はあったのだ。アメリカの誇るリーマン・ブラザーズの倒産は、これを象徴的に示している。そろそろ丹羽理論登場の時が来たのだ。