救国の秘策がある3~丹羽春喜氏 
2010-12-23 08:45:13 | 経済


●秘策の財源調達方法


 「お金がなかったら、刷ればいいんだよ」―――まるで小学生の言うことのようである。だが、政府貨幣の発行は、まっとうな経済学の理論に基づくものである。

 古来、政府が財政収入を得る道としては、(イ)租税徴収、(ロ)国債発行、(ハ)通貨発行の三つの手段がある。丹羽氏は、現在の日本では、この(イ)と(ロ)は「ほぼ限界にきている」。それゆえ、(ハ)の通貨発行によるべきである、と言う。

 租税徴収については、税金のほか国民健康保険料、年金等を合わせると、国民にはかなりの負担になっている。国債については、丹羽氏は、すでに発行残高は膨大な額に達しており、国債のさらなる発行を財源とすると、「姑息かつ規模過小」に陥ると見る。(註 ただし、政府の粗債務から金融資産を引いた純債務で見ると、2007年末で日本の純債務は289兆円。粗債務のおよそ3分の1) そこで、丹羽氏が提唱するのが、政府貨幣の発行である。

 そもそも政府貨幣とは何か。お金には、2種類ある。紙幣と硬貨である。お札には「日本銀行券」と書いてある。政府が発行しているお金ではない。日本銀行が出している。硬貨は、政府が発行している。政府は、記念貨幣や政府紙幣を出すことができる。これらをまとめて、「政府貨幣」という。

 「日銀券」と「政府貨幣」には、大きな違いがある。丹羽氏は、この点について、次のように説明する。日銀券は銀行券であるから、日銀という銀行が振り出した手形や小切手と同じ「借金の証文」である。それゆえ、日銀券が発行されると、日銀の会計では、その額だけ日銀の借金(負債)が増えたという勘定になる。ところが「政府貨幣」の発行額は、政府の負債にはならない。硬貨や政府紙幣の発行益(「造幣益」)は、国家財政の正真正銘の収入となる。利子の支払いや担保は不要であり、元本を返済する必要もない。将来世代の負担にも、ならない。だから、「政府貨幣」を発行すれば、政府の負担にならず、国民にも負担をかけずに、巨額の財政財源が得られる。  「政府貨幣」の発行は無制限に認められていて、数百兆円、数千兆円の発行も可能である。つまり、政府は、埋蔵金とは規模の違う「無限大の無形金融資産の『打ち出の小槌』」を持っている、と丹羽氏は言う。

 政府貨幣の発行は、奇策、禁じ手のように思われよう。ところが実は、ケインズ経済学の理論に基づくまっとうな政策なのである。ノーベル経済学賞受賞者のポール・サミュエルソンは、小泉首相にこのアイデアを提唱した。同じくジョセフ・スティグリッツも、平成15年(2003)年4月、わが国の財務省に招かれた際の講演で政府発行通貨の有効性を述べている。

 また、わが国には、政府貨幣発行の大成功例がある。明治維新の開始期に発行された太政官札(だじょうかんさつ)である。坂本竜馬と由利公正が、新政府の財源として、太政官札の発行を決めた。太政官札という政府貨幣の発行なくして、資金難の明治政府が立ち行くことはできなかった。文明開化、富国強兵、殖産興業へと進む明治維新の成功は、政府貨幣の発行によるものだった。

 こうしたノーベル賞級の経済学者の主張や歴史的事例を見れば、政府貨幣の発行は、奇策でも禁じ手でもないことがわかるだろう。

 ただし、政府貨幣の大規模な発行をできるには、必要な条件がある。その点を次回に書く。
(続く)