巻第六 択医(医を択ぶ)

44 医学なき医術


歌を詠むのに、「ひろく歌書をよんで、歌学ありても、歌の下手はあるものなり。歌学なくして、上手は有まじきなり」、と心敬法師(室町中期の歌人・僧都)はいう。医術もまたこれと同様であろう。医書をいかに多く読んでも、下手な医者はいる。それは医道をつかむ心がけがなく、精密でないからである。まして医書を読まないで上手であろうはずはない。
 中国、日本に博学・多識でありながら道をしらない儒者は多い。が、博く学ばないで道を知っているひとなど考えられないようなものである。

心敬(しんけい、1406年(応永13年) - 1475年5月20日(文明7年4月16日))
室町時代中期の天台宗の僧、連歌師である。連海、心恵、心教ともいう。