登録販売者試験 ─ 試験問題の作成に関する手引き(平成30年3月)

第2章 人体の働きと医薬品

作成日付:19/12/20
更新日付:21/03/16

 


目次:

Ⅰ 人体の構造と働き
1 胃・腸、肝臓、肺、心臓、腎臓などの内臓器官

 

Ⅰ 人体の構造と働き
1 胃・腸、肝臓、肺、心臓、腎臓などの内臓器官

 

 

 1)消化器系
 飲食物を消化して生命を維持していくため必要な栄養分として吸収し、その残滓を体外に排出する器官系である。
これに関わる器官として、次のものがある。
○ 消化
口腔咽頭食道小腸大腸肛門
○ 消化唾液腺肝臓胆嚢膵臓

消化管は、口腔から肛門まで続く管で、平均的な成人で全長約ある

飲食物はそのままの形で栄養分として利用できず、消化管で吸収される形に分解する必要があるが、これを
消化という。

消化には、消化腺から分泌される消化液による
化学的消化と、咀嚼(食物を噛み、口腔内で粉砕すること)や消化管の運動による機械的消化とがある。
化学的消化:消化液に含まれる消化酵素の作用によって飲食物を分解する。
機械的消化:口腔における咀嚼や、消化管の運動などによって消化管の内容物を細かくして消化液と混和し、化学的消化を容易にする。

 

 

(a) 口腔
① 歯
歯は、歯周組織(歯肉、歯根膜、歯槽骨、セメント質)によって上下の顎の骨に固定されている。歯槽骨の中に埋没している歯の部分を歯根、歯頚(歯肉線のあたり)を境に口腔に露出する部分を
歯冠という。
歯冠の表面は
エナメル質で覆われ、体で最も硬い部分となっている。エナメル質の下には象牙質と呼ばれる硬い骨状の組織があり、神経や血管が通る歯髄を取り囲んでいる。歯の齲蝕xivが象牙質に達すると、神経が刺激されて、歯がしみたり痛みを感じるようになる。 

xiv 口腔内の常在細菌が糖質から産生する酸で歯が脱灰されることによって起こる歯の欠損。いわゆる「むし歯」。


② 舌
舌の表面には、
舌乳頭という無数の小さな突起があり、味覚を感知する部位である味蕾が分布している。舌は味覚を感知するほか、咀嚼された飲食物を撹拌して唾液と混和させる働きがある。

③ 唾液腺
唾液を分泌し、食物を湿潤させてかみ砕きやすくし、また、咀嚼物を滑らかにして嚥下を容易にする。唾液には、デンプンをデキストリンや麦芽糖に分解する消化酵素(
プチアリン唾液アミラーゼともいう。)が含まれ、また、味覚の形成にも重要な役割を持つ。
唾液は、
リゾチームxv等の殺菌抗菌物質を含んでおり、口腔粘膜の保護・洗浄、殺菌等の作用もある。また、唾液によって口腔内は pH がほぼ中性に保たれ、酸による歯の齲蝕を防いでいる

xv リゾチームには細菌の細胞壁を分解する酵素作用のほか、消炎作用などもあり、生体防御因子として働く。唾液以外に、鼻汁涙液にも含まれている。なお、医薬品に用いられるリゾチーム塩酸塩は、卵白から精製したものである。

 

 

(b) 咽頭、食道
咽頭は、口腔から食道に通じる食物路と、呼吸器の
気道とが交わるところである。飲食物を飲み込む運動(嚥下)が起きるときには、喉頭の入り口にある弁(喉頭蓋)が反射的に閉じることにより、飲食物が喉頭や気管に流入せずに食道へと送られる。食道は喉もとから上腹部のみぞおち近くまで続く、直径1~2cm の管状の器官で、消化液の分泌腺はない
嚥下された飲食物は、重力によって胃に落ち込むのでなく、食道の運動によって胃に送られる。食道の上端と下端には括約筋があり、胃の内容物が食道や咽頭に逆流しないように防いでいる。胃液が食道に逆流すると、むねやけが起きる。

 

 

(c) 胃
上腹部にある中空の臓器で、中身が空の状態では扁平に縮んでいるが、食道から内容物が送られてくると、その刺激に反応して胃壁の平滑筋が弛緩し、容積が拡がる(胃適応性弛緩)。胃の内壁は粘膜で覆われて多くのひだをなしている。
粘膜の表面には無数の微細な孔があり、胃腺につながって塩酸(胃酸)のほか、
ペプシノーゲンなどを分泌している。ペプシノーゲンは胃酸によって、タンパク質を消化する酵素であるペプシンとなり、胃酸とともに胃液として働く。
タンパク質がペプシンによって半消化された状態を
ペプトンという。
また、胃酸は、胃内を
強酸性に保って内容物が腐敗や発酵を起こさないようにする役目も果たしている。胃液による消化作用から胃自体を保護するため、胃の粘膜表皮を覆う細胞から粘液が分泌されている。胃液分泌と粘液分泌のバランスが崩れると、胃液により胃の内壁が損傷を受けて胃痛等の症状を生じることがある。また、胃粘液に含まれる成分は、小腸におけるビタミンB12の吸収にも重要な役割を果たしている。食道から送られてきた内容物は、胃の運動によって胃液と混和され、かゆ状となって小腸に送り出されるまで数時間、胃内に滞留する。滞留時間は、炭水化物主体の食品の場合には比較的短く、脂質分の多い食品の場合には比較的長い

 

 

(d) 小腸
全長
の管状の臓器で、十二指腸空腸回腸の3部分に分かれる。
十二指腸は、胃から連なる
25cm のC字型に彎曲した部分で、彎曲部には膵臓からの膵管と胆嚢からの胆管の開口部があって、それぞれ膵液胆汁を腸管内へ送り込んでいる。
腸の内壁からは腸液が分泌され、十二指腸で分泌される腸液に含まれる成分の働きによって、
膵液中のトリプシノーゲンがトリプシンになる。トリプシンは、胃で半消化されたタンパク質(ペプトン)をさらに細かく消化する酵素である。

小腸のうち十二指腸に続く部分の、概ね
上部40%が空腸、残り約60%が回腸であるが、明確な境目はない。
空腸で分泌される腸液(粘液)に、腸管粘膜上の消化酵素(半消化されたタンパク質をアミノ酸まで分解する
エレプシン、炭水化物を単糖類(ブドウ糖、ガラクトース、果糖)まで分解するマルターゼラクターゼ等)が加わり、消化液として働く。小腸の運動によって、内容物がそれらの消化液(膵液、胆汁、腸液)と混和されながら大腸へと送られ、その間に消化と栄養分の吸収が行われる。
 

小腸は栄養分の吸収に重要な器官であるため、内壁の表面積を大きくする構造を持つ。十二指腸の上部を除く小腸の内壁には輪状のひだがあり、その粘膜表面は絨毛(柔突起ともいう)に覆われてビロード状になっている。絨毛を構成する細胞の表面には、さらに微絨毛が密生して吸収効率を高めている。

炭水化物とタンパク質は、消化酵素の作用によってそれぞれ単糖類、アミノ酸に分解されて吸収される。
脂質(
トリグリセリド)は、消化酵素(リパーゼの作用によって分解を受けるが、小腸粘膜の上皮細胞で吸収されると脂質に再形成され、乳状脂粒(リポタンパク質xviの一種でカイロミクロンとも呼ばれる)となる。その際、溶性ビタミンも一緒に取り込まれる。

xvi 脂質がタンパク質などの物質と結合した微粒子。

 

 

(e) 膵臓
胃の後下部に位置する細長い臓器で、膵液を十二指腸へ分泌する。
膵液は
弱アルカリ性で、胃で酸性となった内容物を中和するのに重要である。
膵液は、消化酵素の前駆体タンパクであり消化管内で活性体であるトリプシンに変換される
トリプシノーゲンのほか、デンプンを分解するアミラーゼ膵液アミラーゼ)、脂質を分解するリパーゼなど、多くの消化酵素を含んでいる。すなわち、膵臓は、炭水化物、タンパク質、脂質のそれぞれを消化するすべての酵素の供給を担っている。また、膵臓は、消化腺であるとともに、血糖値を調節するホルモン(インスリン及びグルカゴン)等を血液中に分泌する内分泌腺でもある
 

 


NEXT⇒第2章 人体の働きと医薬品Ⅰ 人体の構造と働き1 胃・腸、肝臓、肺、心臓、腎臓などの内臓器官
1)消化器系(f) 胆嚢、肝臓