センセーズ10周年アバンギャルズ20周年-2 | イッセー尾形・らBlog 高齢者職域開拓モデル事業「せめてしゅういち」

センセーズ10周年アバンギャルズ20周年-2


3 家庭訪問シーン

 

子どもの問題行動についてお母ちゃんが先生に相談するシーン。

 

その1 ケンジ、ガラス割りました。28枚。

 

小柄で痩せているお母さん。倍速でくるくる動きそうな、ややカン性で気に病みそうな空気感がある。水野先生が相談に乗るが、職員室なんだろうか、たびたび振り向いて、先輩教師にアドバイスを求めるのがおかしい。

母「ここらでどないかせなあかんと。先月は5枚やったけど、今回は28枚。それと、理科室の骸骨、給食の鍋に入れたんですね。」

いや、そりゃ悪いやろ。

で、水野先生が後ろ向いて聞いた答えは、それぞれで。

「ガラス割るというやね、その心を理解して・・・」

「お母さんの心に寄り添うことが、大切」

とまあ、どれを採用したらいいのやら。で、ついに決心して、お母さんの隣の椅子に座って、寄り添う先生。違う気もする。

結局ベテラン玉田先生に代わってもらう。

玉田「お母さんあのね、昔みたいにね、学校が何してもね、まあ、学校に任せてくれたらね、いろいろなんとかしようもあるんやけどねえ。まあ、心配せんと。」

と、結局あまり効果のないことを言うのだけれど、これが不思議なことに、「まあ、お母さん」というだけで、なんとなく、なんとかなるんちゃうやろか、という空気が流れる。思春期の子どもの悪さはなんともならない。下手に止めようとしても、振り払って出て行くし、さらに行動化してしまう。結局親と教師がどこまで腹を決めて、起こっていることを直視できるかということ。じっと子どもを見ている腹の座り方は、子どものなんとも言えないバタバタした気持ちをやがて納める。玉田先生が出てきたら、何も解決できないけど、一緒に腹を据えましょうか、というメッセージが伝わる。そして、言葉でどんなうまいことを言うよりも、一緒に困ってくれる教師の存在に癒されると、知る。

 

その2 ノボルが女子の体育着盗りました。

 

小濱「お母さん、言いにくいんですけど、ノボルが女の子の体育着、6枚ほどとってね。なんやおかしいなと思って、見てたんですわ。で、掴んでるから、何しとるんや、いうたら逃げて、追いかけたら、図書館のところでうわーとホッて逃げたんですわ。」

と小濱先生らしい、直球勝負。いいところは、この上なく大変な事柄を大変そうな表情で言うのに、なぜか重々しくない感じに受け取れること。母親は動じない。

母「昔ね、ノボルが小学校6年生のときね、担任がノボルくん、エッチしたらしいって。でもね、聞いてみたら、相手の子もノボルも、Hした、って言葉を言ってみたかったのよね。」

先生「昔、公衆電話でピンクチラシぎょうさん貼ってあったでしょ。あれをね、何十枚も集めよってね。トランプみたいにしてね、30枚や、おれ、50枚や、言うてね。で、ポケモンカードみたいな感じやったんかな。そんなんかなー。」

母「うん、うん」

思春期の性衝動に関するやらかしについて、実際にはつきものが落ちるのを待つしかないということもある。

 

民俗学の本に、昔島根の方では、問題が起こったら、集落の主だった者が集まり、その問題について、自分が知っていること、聞いたことを物語のように、とうとうと話して聞かせ、一人が終わると次の者が触発された話をし、問題の周囲をただただ廻るように幾晩も話し続けたそうな。そして、集落の者の知っていることが出尽くしたころ、問題についての認識は各人が同量共有することになる。問題の解決法を話し合うのではなく、知ってることを等量にしていくという、そういう知恵。なんだかこの話を思い出すシーン。歴史学者網野義彦さんが、お師匠さんが借りた文書資料が未整理のまま積んであったのを、整理して何十年後かに、各村に返却しにいく話の中で読んだ覚えがある。いい話なんだよね。

 

その3 先生、私不倫してるんです。

 

子どもの様子に異変を感じた担任の訪問に、何を思ったのか母親は

母「私、不倫してるんです。」と大きい声で宣言するように言う。先生動じずに

河合「4月の日記にね、お父さんとお母さんとガストに行きました。ハンバーグを食べました美味しかったです。って書いてあって、よかったね、って返したんです。で、6月ころの日記にはね、僕とお母さんと高橋さんとイタリアママに行きました。ハンバーグを食べました。美味しかったです。って。そこくらいからですかね。」

母「私、だれにも理解されようと思ってないんです。」

河合「2学期になったらまた、お父さんが、て出て来るです。でも、このお父さんは高橋さんがお父さんになったのか、もとのお父さんがお父さんなのかな、って・・・。ハンバーグ美味しくてよかったね、としか書けないんです。」

 

922日、公演前日、実際に出演者が集まって稽古するのはこの1日しかなかった。その日、初めて顔合わせした河合先生と北神ワークショップのマサノさん。舞台上で家庭訪問に来た先生とお母さんという状況でと説明されてセットしたとたんに、雄三さんは「お母さん、私不倫してるんです、って言って」という。見守る出演者関係者一同、ええーってなるなか、一番動揺したはずの、相手役河合先生は、舞台上でうーん。虚実いっしょのうーん、をもう一度繰り返し、そして、とつとつと日記の話をし始めた。児童の日常生活の一片の描写。でも4月と6月と9月を並べたら、同じハンバーグの味わいが大きく異なっていく。それを、淡々と、目に表情を作らずに日記の叙述だけで、子どもの学校での様子がどうなっているかを伝えていく、河合先生の妙技。絶技!

 

その4 魔法を解いて!

 

このシーン、出来上がる過程の見事さにもう、参加者一同びっくりだった。お母さんはなんだかエキセントリックな服装。全体はエコ志向なのに、色合いはとてつもなく華やかという服装。ここでも、いきなり指名されて、アバンギャルズのイッチーと養父先生が組み合わせになって舞台にあがる。

養父「シュンくんがね、課題が出てこないんですよ。前は完璧やったのに。」

と切り出すも、お母さんは、首をにゅっと突き出し、表情をオーバーに固定させて、ニッと笑い、「乱気流なんです。」と答える。真面目に教師歴40年近い養父先生は翻弄されそう。

 

どうやら、夫が家に帰ってこないらしい。

母「だから、シュンが学校に行きたがらないのももっともかな。」

母「女ってそういう孤独でできているんです。」

ここでも、教師の期待と異なったところで腹くくった女が一人。

 

イッチーは、アバンギャルズのメンバーどうしで結婚し、中学生と小学生の子どもがいる。この間、子どもを連れて楽屋には来ていたけれど、芝居に出るのはかたくなに拒んでいた。この春15年ぶりくらいに大阪での公演に参加した。長いブランクなのに、つやつやした芝居を作った。そして、22日。センセーズ23日公演前日。養父先生と組んだお母さんは、にこやかにとんでも家庭の状況を説明しては、首を突き出して、にゅっと笑い顔に固定する目つきで先生を見ていた。稽古している間は、参加者が観客。観客が大受けに受けるなか、雄三さんがいう。

雄「魔法をかけられてるんです、って言って。本当はお姫さまなんですって」

とうとつですが、つまり、このお母さんのぶっ飛び具合は日常の範囲ではないし、かといって狂気ではないから、設定を思い切ったものにしてしまおうということ。もちろん、この成り行きでとっさに思いついた指示。こういう風に芝居はできていく。うそみたいでしょ。本当です。

雄「養父先生、なんかすごい呪文言って、魔法解いて!」

いや、この4月まで校長先生やった養父先生に、ほんまにやらせるの?

という心配をものともせずに、大げさな演技中でもなんとなく、腰が半分ひけたような姿勢で養父先生は、「うじゃ、っちゃううあじゃうあちゃkらけ、うおー!」みたいな感じで、イッチーに向けて念を発し、手のひらから気を送る。

母「セバスチャン、お茶を」と、気取った手つき表情であちらをみやる。

 

 

次は、子どもの深夜徘徊からいろいろな家庭がみえてくる。