Mws#50 センセーズ 登場 | イッセー尾形・らBlog 高齢者職域開拓モデル事業「せめてしゅういち」

Mws#50 センセーズ 登場

卒業式シーズンにちなみ、森田雄三ワークショップの花、というか鼻先を突き出している集団を紹介します。兵庫県の西部地域中学校教員による「センセーズ」は去年で10周年を迎えました。舞台に立つ人はいれ代わり立ち代わりながら、中心メンバーは揺るがずにいます。このワークショップではめずらしく、再演シーンがいくつもあるのもこのチームの特徴です。チームの芝居のレポートは明日にでも投稿しますが、今日はともかく、センセーズのアタマ・ダを自認する、玉田先生からの寄稿を紹介します。意味のわからないままに始まった雄三ワークショップへの参加の道のり。今は代えがたいお友達ショッパーズである養父先生や小濱先生への最初の印象形成、読みごたえがあります。これを読んだ、センセーズのみなさま、どうぞ、吉村まで書いたものを送ってくださいね。

始まりは大湊
         玉田浩章

 

2004年の秋だった。

 岡田監督1年目の阪神は4位に沈み、檜山が1イニングに2三振を喫した年。世界の中心で愛が叫ばれ、ハウルの城が動いていた。鹿島中学校の尾池校長先生から急に電話がかかってきた。「あータマダ君、ちょっと話があるから来てくれへんかな。」

 こういうのは、あんまりないことやし、まあほとんどいいことではない。来年高砂市で兵庫県中学校国語科研究会があるのは知っていたので、そのことかなあ。でも、もう授業者も決まってるやろしなあ。そんなことを考えながら鹿島中学校校長室まで行った僕に尾池先生は言った。

「あのなあ、イッセー尾形さんとお芝居をやる人を探してるねんけど、タマダ君やってくれへんかなあ。」 

 別にいいですよ。出されたものは食べるのが僕のモットー。

「いいですけど、お芝居なんかやったことないですよ。」

「だいじょうぶ、だいじょうぶ。」

 

混み始めた国道をのろのろと帰りながら、僕の頭の中には狭い壁の間に挟まったサラリーマンの映像が浮かんでいた。あるいは黒いエプロンをつけたオールバックのバーテンダー。そんな人と自分がどう絡めるというのだろう。ちょっとランニングとかしとかなあかんのやろか。だいたいそもそも何をするねんな。前の車のテールランプを見つめながら、心がチジに乱れるタマダであった。

 

年が明けて招集がかかる。イッセーさんの公演が神戸のアートビレッジセンターであるので、その公演を見て、みんなで顔合わせをしましょう。ということだった。

観客がいっぱいで、手を伸ばせば天井に届くようなところから見せてもらった。ギョーカイの人たちが「おはよーございます」とあいさつしている。ウンコみたいな頭の人がいる。あー目が回る。

 

芝居がはねた後、僕たちは「大湊」という居酒屋に向かった。20人以上はいる。誰も知った人はいない。妙に細長い座敷のある店に奥から詰め込まれる。イッセー尾形さんにはモリタさんというすごく変わった演出家がいてはるらしいよ。サマンサがどこからか仕入れてきた情報だった。もしかしてこの目の前に座っている片足のオッサンがモリタさんか? 変わっているって足のことかよ。

 

乾杯もそこそこにモリタさんが言った。「じゃケイコしようか。」

ケイコ? こんなギュウギュウ詰めの居酒屋で? 何の冗談なんだ?

 

森田「何かしゃべって。じゃああなたから。」

玉田「何かって何ですか?」

森田「聞き返さないで。」

玉田「えー、モモちゃんのパパです。」

森田「自己紹介しないで。」

玉田「はあ、僕が今回参加したのは。」

森田「自分とは関係のないことを言って。何か言葉を言って。」

玉田「うー、ヤキソバ。」

森田「目の前にあるものを言わないで。」

 

真っ白です。何を言ったか記憶にない。たぶん「洗濯機」みたいなこと。で「まあいいや、次。」

隣のロマンスグレー(後の養父さん)も苦吟している。ふうやれやれ、何やねんこれは。

連想ゲームとか言いながら「つまらない!」とか怒られてるし。

 

これは簡単に表層で反射するのではなくて、自分の心の中に下りていって過去の引き出しにしまわれた思い出の中で連想しておいでと言うゲームなわけで、「エンピツ」「筆箱」じゃ「つまらない!」と言われるけど「おじいちゃんの青い手ぬぐい」だといいわけ。

僕はその時、3つくらい反射させてニュアンスのある言葉を捜すという法則を勝手に発見した。「サラダ油」「お歳暮」「玄関」「金魚鉢」これでだいじょうぶ。これにもう一手間かけて「フチが緑色のガラスの金魚鉢」でカンペキ。

 

ところが、僕の前に座っていたハゲメガネ(後のコハマっち)はそれが気にいらんらしくて、「なんで、サラダ油が金魚鉢になるんですか!」と怒っている。

「おかしいじゃないですか!」

おかしくないよ。それがここのルールなんだから、状況に合わせろよ。まあ、こいつは敵にはならんな。向こうのほうに座っている名古屋から来たというアベックが「錆びたトタンの家」とかニュアンスのある言葉で褒められている。こいつらうまいな。経験者か?俺のライバルになるのはこのへんか? (と思ったけれど二度と現れなかった。)

え?イッセーさんも座ってるやん!いつのまに。とか思ってたら、ロマンスグレーも「ガラスの小瓶」とかで褒められてる。要チェックやな。

 

さっきから前のハゲメガネはしきりにモリタさんに頼んでいる。

「どんな役でもいいからだしてくださいね。めっちゃみんなに言ったんで出なかったら困るんですよ。お願いしますよ。」 あさましい。

 

森田さんが聞いてる。

「古典とかで枕草子とか暗記させられたりするよね。あれって今でもあるの? あるの?あー今でもあるんだ。じゃあさ、それは何のためにやるわけ? 生徒から聞かれたらどう答えるの?」

 「そら、おまえらこれ覚えてたら、将来宴会のかくし芸で使えるぞ。って言うんですよ。」ハゲメガネが答えている。んーひねりがない。

 

大湊の夜はふける。しかしこのあたりで、酔ってしまって、以降の記憶がない。

この衝撃のファーストレッスンの様子は録音されて(そうそうポチ君がずっとマイクで拾ってた。だからよけい緊張したんだ。)「テアトルイッセー」というラジオ番組で流れた。それをCDにしたものが森田オフィスから送られてきた。

「あんな酔っ払いのたわごとがラジオ!」これはえらい世界に入りこんだなドキドキというのが、僕の正直な感想だった。