森田雄三Mws#43 2005年新潟WS記録
新潟
新潟は新幹線が通じる北陸でもっとも中央に近い町である。港が開け、ロシアや北朝鮮の窓口ともなっている。町全体が平らに広がり、アーケードが張り渡された広い街路をもつ商店街ものんびりとゆったり構えている。今でも呉服屋が多いのには驚くが、悠揚せまらぬ店構えは、それなりに需要があってのことであろうか。
雨になった地域運動会の役員席。雨を見上げながら知的な印象の中年女性が、私今落ち込んでるの、と男性に聞かせるように自分の半生を語る。自己陶酔気味で男性はひく。ひとりひとりのせりふは、お互いになんの脈絡もないように構成されている。会話は成立していないが、言ってみたかったことをイベントの合間にひとりでつぶやいているようなシーンの集積の芝居。
「いい子なんだよな。俺は」「あなた、宝くじ買ったことありますか」「私神さまついてるの。ここに」などと。目を見合わせることすらあるのに、自分の内面に向かった言葉を相手に向けてのようにはき出していく。しかし、イベントの間中はその場にいっしょにいることが半ば強制されているために、あたかも密接なコミュニケーションが成立しているような状況ができあがる。
「ひまわり好きなんだ。私」「パッチワークもするんですよ。」と、男女が近づいていくと、すぐに割り込む他者が出てくる。「だから言ったでしょ。子どもが子ども産んでどうするの」「シャッセ、シャッセ、ジャズウオークジャズウオーク」と踊り出す。
ほかの場面ではぶつかることを巧妙にさけていた葛藤が顔を出す。ありえないようなテンションがみつかる場としてのイベント。
地域のお祭りの炊き出し。作業を担当している女性重役のところに部下の男性が指示を受けに来る。小さな男の子相手に、女の子とは、というせりふを言ってみる女子高校生。
山頂ゴミ拾い。ヤッホー。どこに向かって話すのか、自分だけの世界を大声でしゃべる。
病院の職員運動会。看護士さんがいっぱい。
祭のテント。女性ばかりが酒を飲んでいる。飲み慣れない酒にやけに陽気にはしゃいだりする女性たち。ひとりひとりが皆の前に歩み出て自分が話してみたかったことを辺り構わずしゃべる。人が日頃何を欲望しているかが理解できるようなきがしてくる。ちょっとひっかかったことをだれが聞こうが聞こまいが、気にせずしゃべってみたいのだろうと。
舞台上は独り言を堂々とした口調で話すわずかなハレの日にテンションあげている。
新潟の特徴は、WS中、いくつかの場面が設定されたところで、自然発生的にグループに分かれ、自己主張しないような形のリーダーが生まれたことであった。全体の稽古は森田雄三によって続けられたが、それぞれにふりわけられた人物はグループ内をあちこち行き来しながら、グループ内でせりふの順番を作り出していった。
一段落した女たちのひとり語りは、威勢のいい神輿かつぎの興奮にのまれて収束していく。
日時・・・2005年10月30日(日)13時
会場・・・りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館
設定・・・イベントテントの中。
テーマ・・・コミュニティに浮かび上がる個人。
対人関係の範囲・・・イベントを共有する人。多くは一時的な関係であるが、その日一日はみょうに距離が近くなる。
葛藤・・・・・・・・独白によって個人の来し方の葛藤が言語化される。
葛藤の解消・・・解消は積極的にははかられない。袋の中を取りだして、また片づけたような感じ。
場面・・・イベントテントの中。
衣装・・・・・各イベントを表す記号的服装。そろいのはっぴ、パーカー、登山服、エプロン。
イッセー尾形の関わり方・・・イベントに呼ばれたフォークシンガー。