Mws#38主婦もすなるワークショップをサラリーマンもしてみむとてするなり | イッセー尾形・らBlog 高齢者職域開拓モデル事業「せめてしゅういち」

Mws#38主婦もすなるワークショップをサラリーマンもしてみむとてするなり

最初のワークショップは、フリーターや自分探し中などの若い人が圧倒的に多かったのだけれど、震災直後の2011年7月、日経ホールという、いわば、日本のビジネスの中心で、働く人を対象としたワークショップが開かれた。その後、このときの参加者による日経チームともいうべき東京近辺に在住のワークショップコミィにティが成立し、楽ちん堂の稽古にも中心的存在となっている。ここでは、そのときの稽古風景をレポートから引用します。

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2011
7月東京大手町日経ワークショップ

日経新聞の本社ホールというのは、経団連ビルの隣である。日本の経済活動の中心にあるのだ。そこで、ワークショップをやるという。2011712から14までが稽古、15,16が本番発表会。募集に関する宣伝は、日経新聞の電子版のみ。当初20名の予定が応募者130名となり、急きょ全員参加となった。

 行ってみると、パーティションで区切った風のイベントホールのようなところ。入口にはピシッとしたスーツの男女社員がいて、飲み物と軽食を配ってくれる。ワークショップに来て緊張するのは久しぶり。

 ビジネスマンを対象として参加を呼び掛けたので、ほとんどが会社に籍をもっていたり、つい最近まで企業戦士だったり。今の日本では、企業にきちんと正社員で籍をおいているだけで、エリートだ。ワークショップを始めたばかりの1998年ころ、集まったのは、非正規雇用の青年が中心だった。その後、演劇ワークショップが各地を回るようになり、参加者の層は広がった。しかし、今回は日本の中枢で働く人である。学生もいない。イッセー尾形の芝居のファンは少なくないだろう。サラリーマンには熱心なファンがいる。それにしても、集まっている空気がなんとなく、ひんやりしている。

 

 Y「みなさんは、今、間違いなく緊張しています。そんなときには、周りの人が、「いびつ」に見えるはずです。明日になって気心が知れたら、そのいびつさは消えて、ふつうの人に見えるようになる。これまで知っていた誰かと同類にして、脳内で整理整頓するのでしょう。これが親しくなるということであり、安心して忘れるということです」

と言いつつ、一人の面長の男性をつかまえる。

「たとえば、この方は、首が太くて顔幅が狭いですよね。」(注目を浴びて苦笑いする)

「今の笑い方見ました?この人は愛想笑いする仕事ではないというのが分かりますでしょうか。めったに笑わないから、笑うと顔中が笑顔になる。」

なんて、ことをいきなり言ってしまう。でも、森田雄三の指摘は、事実かどうかということではないのだ。人が普段気付かずに初対面の人の姿形から瞬時に読み取る情報を、言語化してみるということ。そして、いつもの「なんかしゃべってください」課題に入る。

さすが、企業人。常識をきちんと踏襲した入り方である。

「何をしゃべればいいのですか?」

Y「質問しないでください」

「私ですか?じゃあ(たちあがろうとする)」

Y「座ったままで」

「じゃ、自己紹介を」

Y「自己紹介はつまんないじゃない」

「今日は暑いですね」

Y「つまんない」

「生ごみにカラスがたくさん集まっていて、追っ払ったら、一匹がこっちに向かってきて、慌てて逃げ出しました」

Y「準備したことはしゃべらないで、話を変えてください」

と、いつものように進む。会社帰りに、スーツの上着を脱いで日経ホールに集まって、いきなり、しゃべってと言われたら、自己紹介か、天候の話題くらいに決まっている。

でも、容赦なく、今、ここで他者に向かって自分を開いていくレッスンが始まる。そして、怒涛の進み行きとなった。

 いかにも、会社で偉かったろうな、と思われる男性。この人には、

Y「他人に聞かせるための声だよね」

競馬場に行ったことを恥ずかしそうに話して、止めてしまった女性には

Y「この人、自分の話しはつまらないと思ってるのね。恥ずかしそうに笑って、話を止めたでしょう」

と、次々に、このワークショップに来なかったら、一生人から言われることのなかったことを言われて、照れ笑いするしかない参加者たち。しかし、何か本質をついた話に、みな真剣になっていく。

 

Y「誰かの悪口を言ったケースを思いだしてください」

電話で大学の友人に友達言葉で愚痴る女性。

自分が受けた経験を、相手側から再現したクレーム電話。

原発事故への対応について、菅首相を批判する男性。

 

Y「隣の人に、何でもいいからはなしかけてください」

「お前、あいつの葬式、何でこなかったんだよ」

「いつあったんだっけ、お葬式って」

615日」

「その日ね、違う葬式があったんだよね。誰が来た?」

「山本」

「山本が来たのか」

 

ここで一日目終了。

森田雄三は、この日の狙いを次のように述べている。

「企業人は職業的な立居振まいを無意識に身に着けているということ。同職の中では保護色になっている。そのゆがみは顔にも表れている。好感がもたれるように、相手に合わせようとする、誠実、という善人のゆがみだから、本人が気が付くのは難しい。無目的なことをするという(ワークショップ)集まりに、絶えず到達点を目指す企業人のスーツの習性を心のゆがみとして抽出したいのです。」

 

2日目

ちゃんと就職しているほど、自分の業務は説明できないと言える。そこで

Y「自分の業務を、分かりにくく話してください」

「私の仕事は、ちょっとずついろんなことをするんです。あっちの人と話したり、こっちのものを移動したり、怒られたり、喧嘩もします」

「私の仕事は、パソコンと向かい合います。晩御飯を食べたり、ゴルフをしたりするのも、ごくたまに、仕事です。また、叱りたくないのに、叱るのも仕事で」

Y「だれか出て、この人の前に寝転がって。コウイチって言うんだよ。コウイチ、やっぱり働きたくないか。って言ってね。」

「コウイチ、お父さんの仕事はな、毎日、いろんなことがあるんだよ。時にはパソコンと向き合わなければならないときもあるし、ご飯食べたり、ゴルフ行ったりするのも、たまには仕事の時もある。

 それと、いろんなこと考えなきゃいけなかったり、部下をしかったり、同僚には嫌味を言われたり、上司にどやされたり、納得いかないことも、納得しましたって顔をしなきゃいけなかったり、という時もある」

 息子が一人そこに居るだけで、急に芝居のシーンができあがる。ここまで来ると、早く自分もシーンを作ってみたくなる。親の説教も、このくらい、親のやってることが意味不明だと、息子の方から親への同情がわこうかというもの。いいシーンができそうだ。このシーンはほかにもいろいろできそうだ。

「私の仕事は、世の中の動きが、目隠しされているから見えなくて・・・」

Y「女性の方、4人出てパソコンを打ってくれる。その後ろを歩きまわりながら、今の台詞を言って」

「あなたがね、世の中の動きって、目隠しされているのよ。うん。うん。華やかな世界に見えるんだけれど、実際は、華やかな部分は凄く少なくて、華やかな世界に見えるんだけれど、実際は、華やかな部分は凄く少なくて・・・・」

 

Y「今度は、逆に同僚を褒めてください。同僚を褒めちゃうの。具体を褒める。漠然といい人ねとか、気が利くね、女学校。働いている職場で、同僚を褒めるって死活問題なの」

「林さんのマスカラ見た?青くって、すっごく可愛いの。ちょっと下向く光るのよ」

「渡辺さんの今日のネイル、ハイビスカスの模様なの。チョー可愛いの」