森田雄三Mws#35富山Ws2014.2 最後のシーンは雄山を望む | イッセー尾形・らBlog 高齢者職域開拓モデル事業「せめてしゅういち」

森田雄三Mws#35富山Ws2014.2 最後のシーンは雄山を望む

下手舞台上には、左右に男性女性。中央に横たわった女性とその背後にじいちゃんらしき姿。

9 最後のシーン

低く読経が聞こえ続ける。

顔の白布をよけて見るじいさん。「とうとう逝ってしまった。娘から電話かかって病院行ったら、全身けいれんしとるんや。それ見とったら、わしゃ氷みたいになってしもうた。」

「嫁はんちゃ、シジミ貝のおつゆ飲んどるちゃ、カラはずしてくれるもんやと思とった。トマトの薄皮向いて薄くスライスしてくれるもんやと思とった。当たり前でないと死んでからわかったけど、ありがとうの一言も言えんじゃった。おら置いて逝ってしもうた。おら、あしたからどうするんだよう。」

泣き崩れる。

 

前方上手に座った女性が語りだす。

「おばばが、ねえさん、コーヒーいれてくれんけ。ちょこっとね。ちょこっとね。と言うがや。お砂糖喜んで、ねえさんありがとうね。」

「夜中に台所に電気ついとる。だれ起きとるがやろ、おばばが一升瓶たてて、お酒ついどる。ちょこっとね、ちょこっとだけ、て言うがや。おばば、ぽーっと朱なって、毎晩呑んどるから、シワひとつもない。つるつるながや。」

「もうすぐ百歳。誕生日近くになって、ベッドで、だいぶ貯まったやろ。ここに百万並べてみんか、って。なあん、欲しいんでないがや、ちょこっと見たいがや、って。」

「死んだがや。」

 

前方下手に座った男性が語りだす。

「町内のカラオケ大会に一人一曲やいわれとるのに、テレサテンの歌3曲歌うと、参加賞の洗剤3つもろうて。住民運動会もなんでも出ます言うて、なんでも出て。また、洗剤もろうて。うちじゅう洗剤だらけ。お父さん、これから髪も体も洗剤で洗うて、って。来年の運動会あんたも出るがやぞ、二人三脚でるがやぞ、言うたのに、こんなになってもうて。」

 

立ち上がった爺ちゃんと合わせて3人。山を見やる。「薬師やが、雄山、剣やが、よう晴れたな。」

女性「命ていうもんは、必ず生き返ってくるもんや。この世からあの世へ行って、必ず生き返ってくるもんなんや。立山の向こうから命は甦るんやぞ。」

3人「おおーーーいい」

♪ コキリコの竹は七寸五分じゃ ♪幕までコキリコ節はずっと歌われていく。

横たわっていた死者は白い布を取り除かれると起き上がり、やがて白い装束でバリ舞踊を踊りだす。首を左右に動かし、まなざしをあちこちに漂わせ、指を不思議にひらひらとさせる。装束は体に巻きつけられた白い布。頭にもまきつけ、腕や腰、胸には金色の飾りをつけている。

 

残された3人の男女は、死者の蘇りに動じるでもなく。

おそらくは、彼らの五感には、花びらが舞い、風がそよぎ、雲がかげり、日が照っていると感じられるだけ。

 

🎵まどのさんさはでででこでん 

まどのさんさは

 でででこでん 

 

暗転