森田雄三 Mws#23 2006年魚津ワークショップより | イッセー尾形・らBlog 高齢者職域開拓モデル事業「せめてしゅういち」

森田雄三 Mws#23 2006年魚津ワークショップより

昨夜の「雄三です」投稿にあるとおり、雄三さんは石川県の鶴来地方から開ける平野農村の生まれ育ち。そこでのプライバシーのない日常を忌避しながらもしみついています。それがワークショップに生かされたのが、2006年富山県魚津のワークショップ。以下当時のレポートから引用します。





魚津に行ってくると言うと、5人のうち3人までは、静岡の?と聞き返します。

「それは、沼津」

魚津、は富山の少し新潟より、富山湾に面した漁港です。ここはホタルイカの水揚げ港として有名です。金沢に住んでいた10年ほど前。友達の飲み屋のおやじさんが運転するベンツに乗ってホタルイカ漁ツアーにでかけたのでした。ときは初夏。家族が寝入ったころに集合し、到着した真夜中の魚津はコンビニの灯りしかなく。そのコンビニの半分が、なぜか、夜のコーナーというかありとあらゆる精力剤とアダルト本のコーナーで占められていたのを思い出します。コンビニの中にいる私たち一行以外はだれも家の外に出ていないような町でした。やっと港についたら、波が強くて漁に出られないとのこと。眠い目で、ガラスの大水槽に浮かぶホタルイカを大人4人で眺めたのは、10年前のことです。

今年2月の魚津は、道路の脇などによけて塊となった雪が少し残っています。大雪と聞いていましたが、たいしたことはありませんでした。


さて、そんな魚津の夜も明けて翌日、9時からの稽古を見学しました。朝一番、舞台に向かって右手前よりに、農家のみなさんがひとかたまりになっています。いえいえ、ワークショップの参加者でした。今回は農村の光景がテーマなんでしょう。サロンエプロンやもんぺ風ズボン。煮染めた色のセーターに、毛糸の肩掛けといった衣装姿の一群です。どうしても扮装に見えないのは、その人たちがその姿のままとてもリラックスしていて、和やかだったことと、なぜか、広い劇場のいすのうち、右よりにこじんまりとまとまって座を占めていたことによるようです。

まるで、村の秋祭りに劇をやることになり、仕事の合間を縫って抜け出してきたという感じです。おばさんに見えた女性たちが着替えると、若くて化粧っけのない美形ぞろいだったことが後にわかりました。

雄三さんは、後に写真担当のテイヨが感想として述べたように、とても「はしゃいで」いました。日頃この集落ではちょっともてあまし者だった都会帰りもんが、以前の経験を活かして劇の稽古の指導者に選ばれ意外な力量に地域での評判があがってきた、とでもいうような感じでした。森田さんのはしゃぎ方と、参加者の集団のもっているはしゃぎ方の質がとても似ていたため、しっくりとなじんだ一団に見えました。これは期待できそうです。

聞き慣れた抑揚のある北陸の言葉がするすると舞台上に紡がれます。吉田さかなさん扮する肩掛けばあさんは舞台中央にいます。吉田さんはつくば、神奈川、宮崎、と年齢の上下はあるもののおばあさん系の役柄で登場しましたが、地元北陸でのおばあさんぶりはこれまでの中で一番しっくりなじみました。たぶん、彼女の中にある祖母や母の姿が動き出したのでしょう。

彼女は演劇ワークショップの前身である、「身体文学ワークショップ」で活躍した人です。アンチロマンをテーマにしたワークショップでは、女が帰宅すると、裸足で髪をふり乱し前はだけの女性が玄関に立っているという情景を書きました。やがて、はだけ着物の女性が女の母親であることを明かしますが、その得体の知れないものが立ち続ける家というものの恐ろしさがあとを引く出だしでした。まさにその老婆が、穏やかに身体を二つ折りにして、今座っているのです。

上手、縁側という設定で、2人のばあさんが座っている。大きな家にさかなばあさんは一人暮らしか、留守居の日か、縁側の2人はばあさんだけの3人の時間の心地良さに長居しています。聞き取れないようなどうでもいいような内容なのだけれど、北陸特有の上がり下がりのある言葉がやりとりされ、見ているだけでおもしろくて笑ってしまうシーンです。そして、こういう情景は長かった金沢での生活で、何度も遭遇したものでした。日常にありきたりの場面。でも、切り取られると、やたらおかしみがわきます。おばあさんたちの身体を包む満艦飾の衣装というものも、舞台で見るとすこぶるポップに見えてきます。

帰る理由を今思い出したというように、大声あげながら一人が腰をあげると、もう一人は「まだいいがいね」と止めに入り、浮かした腰が二人して上がり下がりする動作に、ぽんぽんと弾むような北陸言葉が合わさって、大笑いしてしまいました。

たぶん、縁側に座ったときには、正面からさしていた日差しは傾き、今は右膝だけに当たっているのではないか、と想像がわきます。

森田さんは、「キーワードは元気の良さ。今を生きてるばーちゃんは、元気よい話し方をするの。そういう風に言葉を出すことで自分を奮い立たせてるの」

確かに、北陸のばあちゃんは大声でした。道も広いし、敷地も広いので、遠くから知り合いを見つけたら、大声で呼ばわるのです。あたり近所触れ回るような声での挨拶を、自分にしかけられたものか、とつい会釈したこともありました。