ノマドの独り言 vol.3 北へ。 | いしだ壱成オフィシャルブログ『Arrivals』powered by アメブロ

ノマドの独り言 vol.3 北へ。

さてさて、久しぶりの独り言。
きっと長~くなってしまいますがよろしければお付き合いを。
3年ほど前いつものごとく、一人でろくに旅程も立てずに渡仏した際、ふと『北へ行ってみようか‥』と思い立ったが吉日。気がつけば北極圏の真っ只中にいたお話。
確か、あれは真夏のヨーロッパ。暑くて暑くてうだる様なパリの街を寝台列車で後にして数日間。
ベルギー、オランダ、ドイツ、デンマークをゆるゆると列車は通過し、幾度かの乗り換えの後、僕は憧れのスカンジナビア半島にいよいよ足を踏み入れました。
スカンジナビアと言えば、バルト三国、スウェーデン、ノルウェー、フィンランドという子供の頃から是非とも訪れてみたい国々が連なる地域。インテリアの仕事をしていた母方の祖父の影響で、北欧のモダンインテリアには並々ならぬ興味が昔からあった僕は途中下車したコペンハーゲンでその斬新なインテリアの数々を家具屋さんやミュージアムで目の当たりにして、それはそれはため息の連続でした。
その旅の最終目的地は、なんとな~くフィンランドの北のどっか、としか決めておらず、ひとまずフィンランドの首都、ヘルシンキまで。
『ラップランド』、スカンジナビア半島の北のおよそ半分を地元ではそう呼ぶそうで、その事もヘルシンキで投宿した宿のご主人から聞いた、という何とも準備不足もいい所な体たらく。
早速『行ける所まで、北へ行ってみるか‥』と次の日の夕方の寝台列車に飛び乗って、北極圏の玄関口の街、ロヴァニエミへ向かいます。
寝台列車に揺られるうちにうとうととして来るのですが、外は一向に明るいまま。
どこまでも続く森と湖が車窓を緑鮮やかに色どっています。
なるほど、確か童話のムーミンもフィンランド発祥だったか‥ふんふん、確かにそんなお話も飛び出して来そうな、童話的な景色。
冬には雪に閉ざされる木々も夏場の今、一瞬の緑を一生懸命に、息吹かせているんだ。
そんな事を考えながら、一心不乱に移り変わる風景を胸に刻み続けていました。
‥まだ明るい‥。
ふと腕時計に目をやると既に午後11時。
あ!これ、白夜‥!
今さらながら気がついた白夜体験。本当に暮れないのですね、太陽。
明るすぎて眠るにも眠れず、早朝のロヴァニエミ駅に降り立った僕は、さて?ここからどうしたものか‥。と暫く無人の駅で途方に暮れていました。
駅員さんの話しでは、ここから先はバスでしか北へ行く手段は無い、との事。
じゃあ!と長距離バスに乗り込み、もっと北へ。今考えると、何でそこまでして、と思いましたが、行く所まで行きたかったのだと思います。
ノールカップ、という地図で見るとスカンジナビア半島の本当に本当の北の果ての街へ向かうバスに乗り込んだ僕はみるみるうちに森も湖も何もかもなくなって平坦になって荒々しくなって行く景色を見てるうちに段々と心細くなってきました。
『本当に帰れるのかな‥』
おろおろしていると突然、日本語が耳に飛び込んできてびっくり。『どちらまで行かれるんですか』振り返ると学生さんとおぼしき日本人の若者がニコニコと眼鏡ごしに微笑んでいます。
『いや、実は何も決めてないんです』
『そうなんですか、僕はとりあえずノールカップまで行きます』
聞けば、確かに学生さんとの事。夏休みを利用して北の果てを目指して旅をしていると若者は言います。
ノールカップでスカンジナビアの北端を踏んだ後、ノルウェー側から飛行機に乗って今度はもっと北のグリーンランドへ行くのだと。
この分だと、何なら北極点まで到達しかねないほどの勢いで若者は北極についての思いを語ってくれました。

僕は彼の様な特別な思いは特にありませんでしたから、ただ、はぁ、と話を聞くのに精一杯でしたが、少なくとも自分がどえらい場所に向かっている事は理解できました。
このあたりは冬場は氷に閉ざされてしまうので殆ど木々が生えない事、同じ理由で線路がひけない為、移動はバスか飛行機しか無い事、ついでに飛行機は常に旅客の輸送と物資の輸送のために使われる事、何といっても緑が一年のうち今このタイミングでしか息吹かないという事、つまりは僕はとてもラッキーだったという事。
バスは冬場にはオーロラ観測のメッカとなる、最後のリゾート地、サーリセルカに到着しました。
見渡す限りの大平原を覆う美しすぎる緑の木々とその隙間を流れる雪溶け水を含んだ小川。
‥今だけなんだ。
学生さんも今日はここで下車する、というので僕もあやかってその街で下車する事に。
学生さんに別れを告げ、しばらくその小さな街を歩いて、ログハウスのバンガローにチェックイン。レストランもろくに見当たらないので、地元のスーパーでパンとチーズを買ってサンドイッチを作って腹ごしらえをした後、背の低い木々で覆われた森へ散策に出掛けました。
本当に一年のうちに今だけしか目にする事の出来ない美しい緑。
白夜だから、夜遅くなっても道に迷う事は無く、その緑のなかをいつまでも歩き続けて、ともすると森の奥からユニコーンでも飛び出して来そうな小川のほとりに腰をかけ、妖精ってきっとこんなところに出るんだろうな‥なんて突飛なことを考えながら、真夜中に陽が暮れるまでラップランドの自然を身体いっぱいに吸い込んでいました。
あの若者は、一体何処まで行ったんだろう?
突然に思い立った『北』を目指す旅。偶然に偶然が重なって思わぬ景色に出会えた旅。
自然の生命力に圧倒されっぱなしの数日間でした。
ちなみにロヴァニエミの郊外にはサンタクロースの故郷とされる『サンタクロース村』なるものがあって、そこから誰かに宛てて手紙を書くと12月25日ぴったりに相手に届くそうです。消印も『サンタクロース村』のもの。5ユーロでご自宅でくつろいでいらっしゃるサンタさんと記念撮影も出来ます。
僕は遠慮しましたが‥。


壱成