ノマドの独り言 vol 1 | いしだ壱成オフィシャルブログ『Arrivals』powered by アメブロ

ノマドの独り言 vol 1

僕が旅日記やサッカー観戦記を寄稿している、Garcia Marquez Gauche 発行のフリーペーパーGroovin'High のvol 12の配布が始まりました。
Cafe de Nomade、遊牧民のカフェ、と名づけたコーナーでは公私問わずに訪れた世界中の街並みを写真つきで紹介。
いわゆるオススメスポットから、自分が何かを感じた場所、宿泊先の情報から感想まで、詰め込められるだけのことを詰め込んで、毎回楽しく文章を書いています。
読者の皆様には、次に出かける旅のガイドブックがわりになってくれたらいいな、という思いのもと、なるべく解りやすく寄稿させて頂いています。はい。

さて、今回取り上げたのは僕が心底愛する街、バルセロナ。

あまりに書きたい事が多すぎて、ページが足りない‥という事態に陥ってしまいましたが、奇しくも同じく同雑誌に旅日記を寄せている、テクノゴッド、ケン・イシイ氏のDeck Tripperの今特集も、バルセロナ。

良かった良かった、流石はマスター、ケンさん。僕が書きたかった事の殆どを網羅してくれていました。

‥話がだいぶ横道に逸れてしまいましたが、バルセロナ。

原稿には書かなかった、サッカーチーム、F.C Barcelona(通称 バルサ)への熱い想いを少しだけ‥。

初めてバルサの試合を生で観戦したのは、今から遡ること7年以上前でした。

折しも、フランスワールドカップの直後、母国開催したフランスが決勝戦でブラジルを撃破して、優勝を決めたあの感動の余韻が世界中残っていたのをよく覚えています。
試合を決めたのは昨年、現役を引退したフランスの英雄、ジダンの強烈なヘッド2連発。

僕の周囲でも、素晴らしいゲームが目白押しだったW杯フランス大会。その影響を受けてヨーロッパサッカーに興味を持つ人が増え、頻繁にヨーロッパサッカーが話題に登っていた最中、スペインに行く機会があり、せっかくスペインへ行くのなら、スペクタクル溢れるサッカーをするというバルサの試合を観てみたい、と心に決めて特に何の前情報もないままバルセロナの空港に降り立ちました。
因みにバルセロナ、という街の情報もほぼゼロでしたが。
とにもかくにも、街の構造を把握せねば、と早速レンタカーを借りて一人でバルセロナの街を走り廻りました。
当然、迷子になります。
かの有名なサグラダ・ファミリアを観に行こうとするものの、なかなか行きたい方向へ行けません。
外国特有の一方通行の多さと日本とは車線が反対なのとで、サグラダ・ファミリアがどんどんと後ろへと遠ざかっていきます。

陽も傾いて来て、今日のサグラダ・ファミリア観光は無理か‥と諦めかけていた時、レンタカーのフロントガラスの向こうに忽然と巨大なスタジアムが現れたのです。
『まさか‥』

そのまさかが本当に当たります。サッカー雑誌やら、バルサの試合中継やらでしか見たことのなかった、バルサのホームスタジアム、エスタディオ・カンプ・ノウです。

あまりの規模の大きさに、思わず前を走る車に激突してしまいそうな程、唖然と巨大な建造物を見上げていました。

早速レンタカーを空き地に停めて、敷地内へ入ってみました。
その日は確か試合の無い日の筈でしたが、みるみると人々が溢れかえっていきます。



もしや、試合は今日!?

時計を見ると確かにキックオフな時間帯ではありました。
でも‥いや、きっと違う違う。
たぶん有名なロックスターのコンサートか何か‥や、でもカンプ・ノウはサッカー専用スタジアムの筈だ。コンサートならきっと別のホールか、そういった類いの場所でやるはずだ。
え‥でも、もし本当に試合だったら‥わ!チケット持ってない!しかも歓声なんか聞こえてきたー!
入り口へと走る人を呼び止めて聞いてみよう、『あのー‥今日は試合ですか?』『英語ワカラン!』あー、そうだ。ここはカタルーニャ語が公用語に近くてスペイン語ですら‥英語なんて通じる訳がない。
こうなったら身振り手振り。
スタジアムを指さし『バルサ!?フットボール!?』『イエースイエース!!』
げっ、やはり日本時間で計算してた。チケットどうしよう‥。
どうせなら当たって砕けろ、絶対に試合直前なんかに手に入る訳がないと思っているチケット。
土地の皆様はきっと年間会員なのだろう、写真つきのカードを片手にゲートをくぐっていく。
絶望的な気持ちになりながら、走る!走る!また歓声。焦り。
人を掻き分けかきわけ、恐らくはチケット売場‥の様な人だかりの出来ている小屋の前にたどり着く。次々に横入りして来る人々を、お行儀良く待っていたらきっと試合が終わってしまう、強引に窓口の前に割って入る。
『あ‥う‥』カタルーニャ語がわからない。またもや身振り手振り。『チケット‥バルサ?』
門前払い覚悟で聞いてみた。
だいたいここがチケット売場なのかどうかも定かじゃない。
でも聞いてみない事には何も始まらない。
『‥。』
窓口のお姉さん、早口で何かをボールペンで指している。
さっぱりわからない。人々の喧騒と僕の果てしない沈黙。
お姉さん、早くして、とばかりに何かを訴えている。
後ろから野太い手が伸びてきて、ガラスの上に貼ってある紙を指した。振り返ると優しそうなお兄さん、カタルーニャ語で何か言いながら人差し指で紙をつついている。
紙にはスタジアムを上から見た様な絵柄。
あ!もしや席を選べって事か!?
だといいな、と思いながらメインスタンド側を指す。
お姉さん激怒。
『ノーノー、ヒアヒア』とお兄さん、片言の英語で蛍光ペンで塗られた箇所を指さしてくれる。
なるほど!こことここが空いてるって事か!
かなり僕はドン臭い日本人であった筈だが、やっと事態を把握。
ホームチームのバックスタンド側のチケットを購入した。
ユーロ統合前だったので、ペセタで払った。確か千円前後だったと思う。
ニコニコ笑うお兄さんにお礼を言って、再び走る!走る!

憧れのバルサの試合が見れる‥。
ゲームは前半20分過ぎたあたりだった。スタジアムの熱狂に圧倒されながら、試合に見入る。

美しかった。

これがサッカーかと思うくらい、まるで別のスポーツの様。
バルサの憧れの選手、フィリップ・コクーの姿を追いかけた。
カミソリの様なパス、巧い。
一人でおっきな歓声を上げていた。
相手チームは青と白のユニフォームを着ている。まるでバルサの前に手も足も出せない様だった。
後でオビエド、というチームだった事を知った。
バルサの攻撃、凄まじい歓声、ゴール、タイムアップの笛の音、そして美しい勝利。
完璧なまでのゲームだった。
歓声を上げながら家路へ就く人々に混じってスタンドを後にした。
スタジアムの外は勝利を祝うバルサのサポーターで溢れ返っていた。そして警官隊。そこかしこに車が乗り捨てられている、僕もすっかりレンタカーの事を忘れていた。
空き地を探して車を見つけた。
警官がチラチラと車を見て回っている。怒られるかな‥と車に近づいて振り返ると、一人のお巡りさんと目が合った。
お巡りさんは軽く微笑んで親指を立てた。

バルサが勝ったからかも知れない、でも何だか嬉しくなって手まで振ってしまった。
以来、バルセロナで迷子になる事は何故か殆ど無くなった。

初めてのバルセロナでのサッカー観戦、ちょっとした偶然が重なってとても貴重な体験に。

原稿には書き切れなかった、思い出深い、美しい地中海の美しい街で遭遇した一夜の出来事でした。

ん‥全然少しじゃないじゃん。


壱成