結局、その夜もよく眠ることができなかった。


朝起きるとイクラちゃんも心なしか目が赤く、昼前に深夜勤務から帰ってきたタイコおばさんに「久しぶりの再会ではしゃいじゃった?」とからかわれる始末。


「ばー→ぶー→」


寝起きでもイクラちゃんの演技は完璧だった。


タイコさんに遅い朝食を作ってもらった後、俺はイクラちゃんを連れて札幌観光へと向かった。


聞けば、イクラちゃんはほとんど一日中家にいて、外には数えるほどしか出たことが無いらしい。


おくさマンボウの出勤時間までタイコおばさんは睡眠をとるので、俺が代わりに遊び相手を買って出ることにした。


どうせ今日は一日中オフだし宴会もない。ホテルで寝ているよりは幾分か有意義な過ごし方だろう?


札幌から特急で旭山動物園へ向かい、たっぷり遊んだ後びっくりドンキーで飯を食った。


その後レオパレスに帰宅してダラダラしていると、気がつけば時刻は23時過ぎになっていた。




***





「父は来るでしょうか」


タイコおばさんが洗い物をしている間を見計らってイクラちゃんが呟いた。


「朝一の飛行機に乗るとは言っていたけれど…東京は台風が来ているから飛行機とんでないのかも」


「先ほどネットで調べたところ、東京→札幌行きの便は夕方頃に平常運行に戻っていますよ。スムーズに乗れていればもうとっくに到着しているはずです」


「ううむ…」


ノリスケおじさん、やっぱり浮気男なだけあって口先だけなのかな?


俺は「店が終わったら電話するよ」と自分から言ったくせに、いくら待っても連絡をしてこないホストを担当に持つ女の子の気持ちが少しだけわかった気がした。


「イクラー、カツオちゃんー、私そろそろ出勤するから」


「うそっ?山崎パンの?もうそんな時間か…」


「カツオちゃん…本当にありがとうね。もうホテルに戻りなさい。わたしたち、親子二人で強く生きるわ」


「う、うん…」


(ノリスケおじさん、何やってるんだよ…!)


「じゃあ行ってく――」


タイコおばさんがコートを羽織った瞬間、インターフォンが鳴った。


時刻は23時34分。

タイムオーバー寸前。待ち人来たり。




***




「あなた…どうしてここが…」


「カツオくんから連絡を受けたんだ。飛行機が飛んでいないから新幹線で青森まで行ってフェリーに乗っていたらこんな時間だよ」


「か、帰って頂戴…わたしはあなたなんか居なくてもちゃんとイクラを食べさせています!」


「タイコォォォォ!!!!すまん!!!!」


「ちょ、ちょっと、子供たちが見てるから外に出てくださいな」


タイコおばさんはノリスケおじさんを連れて玄関の外へ出て行った。


もちろん俺たちは窓からその様子を鑑賞。夜であるため2人の表情は確認できないが、縋ろうとするノリスケお

じさんをタイコおばさんが突っぱねているように見えた。


数分言い争いをした後、ノリスケおじさんのシルエットがorzの形に変化した。


「土下座に泣き落としか――。これはまた古典的な飛び道具だ」と他人事のように言うイクラちゃん。


「うわぁ、ノリスケおじさんのやつ、俺の言ったとおりにしやがった…」


「そろそろ僕の出番ですかね…」


イクラちゃんはスッと立ち上がると、玄関のドアを開けて2人の元へ駆け寄っていった。


「ちゃーーーーん!ちゃーーーーん!!」


泣き叫びながらノリスケおじさんに飛びつくイクラちゃんを見て、涙ぐむタイコおばさん。


やがて3人のシルエットは寄り添い合いひとつになり、レオパレスに静寂が訪れたのだった。





***





翌日昼過ぎ、千歳空港。


札幌/新千歳空港発 東京/羽田行きANA●●便の座席でうとうとする俺の姿があった。


離陸まであと数分。早く、早く飛んでくれ…。


昨夜はタイコさんとノリスケさんの復縁を祝って宴会が開催されたため、俺は結局この札幌旅行中、満足に睡眠をとることができなかった。


早く寝ないと明日からの営業に差し支える。


ただでさえ旅行中は客にろくに連絡しなかったというのに…。


「カツオぉ、お前お楽しみだったらしいじゃねえか」


ごついウォレットチェーンをチャラチャラ鳴らしながら堀川君が言った。


「あ…ふ…ぇ?」


俺はその時、いかにして己の瞼の重力に抗うか奮闘中だったので、間の抜けた返事しかできなかったわけだが。


「風俗行ったあと嬢をお持ち帰りして、嬢の家に入り浸りって聞きましたよーって。プギャプギャ」


「間違っちゃぁ…いない…け、d…」


「甚六なんて、嫌がる嬢に本番強要してあのザマだぜっ」


堀川くんの指差す方向を見ると、頬が二倍にはれ上がった甚六さんが世を呪うような目をして俺を見ていた。


「ありゃ…自業自得…だr」


――と、ケツのあたりに重い振動が走った。


飛行機のエンジンがかかり、ゆっくりと機体が動き出す。


(結局…普段よりも疲れただけだったなぁ…)


そんなことを思いながら窓の外の風景を見ていると、隣席の堀川くんがなにやらぼりぼり食べ始めた。


「うめぇ、じゃがポックルマジうめぇ」


「なんだよ…それ」


「お前じゃがポックルしらねーの?ありえねぇ!札幌の有名なスナック菓子じゃん!客に土産で頼まれたんだけどさー、運よく買えてよかったわぁ」


「ぇ……」


「マジ土産買いすぎた~キティちゃん買いすぎた~!」


「………………………………………………………………土産買うの忘れた」







番外編 終わり


鬼畜営業カツオ


次回から本編再開いたします(´З`)