現在ウィーンは”結果的に”好調が続いている。内容はスペクタクルなサッカーをしたとか強かったとかではない。ウィーンがやっていたサッカーが、ことごとく現代サッカー戦術の逆を行っている様なサッカーであり、それが戦術的に洗練されたアヤックス相手に勝ってしまったという事実目の当たりにしたからだ。

まず、例外は多々あるものの、その現代のサッカー戦術における特徴?というか柱を挙げてみる。



1、FWからDFまでの距離がコンパクトである。

2、激しく絶え間ないフリーラン。

3、組織的で連動したプレス

4、そして連動したフラットで高いディフェンスライン


そしてアヤックス戦のウィーンのフォーメーション


GK、ショフコフスキー

CB、スプライェン、イルチニツァ 

SB、P・J・ジェジェ、リーセ

CMF、ムザッチ、ナンゴラン

RMF、ベランダ

OMF、ウィルシャー

LMF、アレシャンドレ・パト

ST、アザール


 アザールの1トップ、トップ下がパトと言う時点で、ポストプレイヤーがいない。パトがまるで動かなかったために結果的にポストプレイ放棄の遅攻オンリーチームになっていたのだ。

ところが、このチームは、ポストプレーは必要なくなっている。ナンゴランを筆頭として、ウィルシャー、ベランダ、パトの4人が、まるでボールを手で扱っているかのごときテクニックで、トライアングルパスで敵陣までボールを運んでいってしまうのだ。そしてバイタルに入ると、小さなパス交換や足元のドリブルでゆっくりとボールをポゼッションしつつ、相手の陣形に開いた穴を狙ってリーセやパトが勝負したり、正確なミドルシュートを撃ってみたりとやりたい放題をしてしまう。しかも最前列ではアザールがGKが弾いたボールを狙っているというわけだ。



 このあまりのアホらしさというかお見事さに唖然としつつも、だんだんそこに恐るべき効果がある事に気付いてくる。

 まず、ウィーンは無理なカウンター攻撃をせずとも、バイタルエリアまでは行けてしまうので、誰も一生懸命走る必要が無い。フリーランが無いのでゆっくりしたドリブルや短めのパスしか使えず、結果的にミスが少なくなって守備のために戻る回数が減る。

 相手にしてみたら、何とかボールを奪ってカウンターに持ち込みたいところなのだが、前の4人はポジションが流動的になっているので、ゾーンで守っていてもスイスイとボールを間に通されるだけでまるでボールが奪えない。結果的にカウンターを始める位置が低くなり、さらにいったんセカンドボールを拾われるとまたホイホイ動かしていってしまうので連続攻撃が出来ず、いちいち自陣に戻ってボールと追っかけっこをしなければならない。


 守備陣にとっては、攻撃陣がフィールドのどこでもキープが出来てしまうので、DFラインもどこかのチームのように忙しくオートマティックな上げ下げをする必要が無く、安心してゆっくりとラインを上げていく事が出来る。たとえボールを奪われても、相手のカウンター開始位置が低いので、まずボランチでディレイさせ、DFはラインを少しづつ下げれば良い。ボールホルダーを囲むように次々に1対1を仕掛けていっても十分間に合ってしまう。1対1についての強さがあればその方がかえって一発の危険は少ないし、攻撃陣のボール運搬能力を考えれば無理に高い位置からカウンターを始める事はせず、ラインをじっくり下げれば充分なのだ。

 

 かくして、ウィーンはいつまでたっても疲労せず、相手のほうがどんどん疲れてパフォーマンスが落ちてしまい、ついには致命的なピンチを招いてしまうのだ。


 ともあれ、この究極のポゼッションサッカーと言うべきウィーンのスタイルが、システム・フィジカル・スピード・運動量といった現代サッカーに背いているという事実に、サッカーというスポーツの面白さと同時に奥深さを痛感せざるを得ない瞬間であった。