後半戦で勝ち点の取りこぼしが増え、27節のソショー戦に敗れ優勝争いから一歩後退した感があるACウィーン。監督の信条でもある「美しいサッカー」で栄冠を手にすることは不可能なのか。チームは今、理想と現実の狭間(はざま)で苦しんでいる。

世界で最も美しいウィーンのサッカー


 最高の美しさを備えながら、見ていて最もフラストレーションがたまるチーム。10秒で10本のパスをつなぎ、あっという間にゴールを陥れる一連のプレーは驚くほど鮮やかで、今シーズンはPSG戦とサンテティエンヌ戦で5得点、ソショー戦では4ゴールを積み重ねる。だが、一転してスランプ時は、30本のシュートを放とうと1点も入らない。

ツキがないのか、実力がないのか。とにかくここ4シーズンはタイトルと縁がない。しかし、彼らのポテンシャルは本物だ。メッシとロナウドが揃った世界一のタレント集団レアル・マドリーよりも個性豊かで、無駄なパス回しが多いバルセロナよりもはるかに洗練されている。だからこそ、いかにタイトルから遠ざかろうと、ACウィーンは、ファンからの絶大な支持を失わずにいるのだ。


 もっとも、クラブ首脳陣はファンと同じ気持ちではいられないだろう。6年に一度の会長選挙も次第に迫っている。しかし未だにタイトルがないという現状を考えればラトル会長は焦っているに違いない。クラブ首脳陣が何よりもタイトルを、それに付随してもたらされる多額の収入を欲するのは当然のこと。つまり、結果を残せないチームの改革を考えたとしても何も不思議はないのだ。

ウィーンがここ1、2年の間にタイトルを獲得出来なかった場合、会長の落選と監督の解任は免れないかもしれない。では、その最悪のシナリオを現実のものとしないためには、どうすればいいのか。彼らが抱える問題と、その対策をここで論じよう。


弱点はディフェンス面と絶対的のストライカー不在


現在のウィーンを読み解く上で、まずは現陣容をおさらいしよう。今シーズンも同様、中盤での数的有利を狙い、よりボール支配率を高める攻撃を可能にするため3-6-1を導入した。この新システムは期待どおりの機能性を示しており、中でもカンドレーヴァ、ナンゴラン、イルチニツァ、ベランダ、アザールの5人で構成する攻撃的な中盤は質量ともに万全だ。

中盤でかじ取り役を担うアントニオ・カンドレヴァも精力的に幅広いエリアを動き回り、際限なくチャンスを演出している。この司令塔のパートナーを担うのはラジャ・ナンゴラン。ウィーンの攻撃スタイルの象徴となった29歳の万能型MFは、カンドレーヴァのサポート役として不足のない人材だ。


 しかし、中盤の底を任されるムザッチには課題が多い。視野の広さやパス精度の高さ、攻撃の起点としては評価が高い。しかし体のあたりが強くはないので、守備面に不安が多い。クラブとしてはマルセイユのヤヤトゥーレ、あるいはトッティナムのハドルストーンのようなアンカーマンを手に入れたいところだろう。現在チームはムザッチを一つ高い位置でボランチにバラックを起用することが多いが、バラックも時間が必要だろう。また試験的にラネーをボランチの起用も見られた。(その場合サイドバックは誰かという問題になるのだが・・・)


 最終ラインにも問題が多い。というより、チームにとって一番のウィークポイントは守備陣にある。まずはセンターバックだが、副キャプテンのパルミエーリはボール奪取力や高さでは文句ないがスピードが未だ足りない。ワンバックで守る事が多いが、裏へのスペースを狙われ抜かれると追いつけない。DF陣を補強しなかった点は、この夏最大の失敗と言っていいだろう。

GKにも不安がある。ヴェルクトールは能力値が高いもののそのパフォーマンスは発揮できていない。安定感はあってもチームを救うようなビッグセーブを見せることはほとんどない。また、控えのダイゼンフィアーも経験値が足りず、当然ながらヴェルクトール以上に信頼が置けない状況だ。

ただし、守備陣の中でも両サイドバックのラネーとスプライエンの2人は及第点以上の働きを見せている。彼らの貢献度は攻守両面において計り知れない。それだけに、「最終ライン」というくくりで彼らが正当な評価を受けていないのは何とも残念だ。


 またこのACウィーンを操作しているプレイヤーが守備陣の整備を不得手としていることは言うまでもない。プレイヤーの指導でディフェンス面が改善されない以上、守備専任のコーチのレベルを上げるべきだと、多くのクラブ関係者が首脳陣に進言したことだろう。レベルの高いトレーナーを迎え、これまでよりも守備の練習に資金を割けば課題も難なくクリア出来るはずだ。それが実現していないというのは、監督が反対されているからだろうか。想像の範疇(はんちゅう)ではあるが、このプレイヤーのポリシーにこそ、ACウィーンの抱えるもう一つの問題があるように思える。