生徒の話を全部拾ってしまうG先生は、話があっちこっちに飛んでしまって、授業の流れが保てない。さらに、生徒が勝手なおしゃべりをしてもうまく注意ができない。どんどん声が大きくなるだけで、ずっとしゃべり続けているから、生徒もそれに慣れてしまっておしゃべりが止まらない。そこで、突然黙ってうるさい生徒をじっと見て生徒が意識したら、注意を与えることをアドバイスした。ちょっとした「間」なんだけど、これが意外と効果があった。やっぱり「間」なんだ。

 

 

「間」を盗む  

 討論のときにどこで話に入っていくかというのは、縄跳びに入っていくタイミングを見極めるのと同じで、それが上手い人と下手な人がはっきり分かれる。

 上手い人は、相手が呼吸するタイミングで入ってくるよね。その呼吸の間合いを読むのが上手い。ある人が「僕はね、そういうことはね」と言って息を吸った瞬間に「いやあ、だけどさ」と入ってこられると、「ウッ」となって、話をとられる。そうやって相手がしゃべるのをつぶす。テレビで人気のあるキャスターとかアナウンサーは、このあたりの間合いを熟知していて、息継ぎのタイミングをちゃんと研究しているから、みんな上手い。

 最近は話に割って入ろうというときに、「いや違う。あなたの言っていることはおかしくて・・・」と、否定から入らない。全く逆で、「それはあなたの言うとおり」って肯定してから入ってくる。そう言われると、相手も一瞬「うん」となるから「間」が空く。その瞬間に「この人の言うとおりで、私はねー」って自分の話をするんだよ。それから否定的な意見を述べて、結果的にその人の話をつぶしちゃう。

 川の流れに似ている。川の流れを誘導したいときに大きな岩を置いて堰き止めちゃうやつが、「いや」「でも」とか否定で入るやつ。でも議論に上手く割って入るときは、堰き止めちゃあいけない。

 議論の流れを、いかに相手に気づかれないうちに自分の持っていきたい方向に持ってくるか。そのために、やっぱり岩を置いて堰き止めるんじゃなくて、板みたいなものをすっと差し入れて流れを変えないといけない。

堰き止めちゃうと逆上して、いつまでも黙らなくなって、「あんたの言っているのは違うよ、こうだよ」「いやそうじゃないんじゃないか」とヤジ合戦になっちゃうから、「あなたは正しい」と言っちゃったほうがいい。

「間抜けの構造」 ビートたけし 新潮新書

 

 生徒指導の上手な先生は逆上している生徒の一瞬の間をつかむのがうまい。授業を妨害する生徒や問題を起こした生徒を一方的にしかるのではなく、あなたの気持はよくわかるよといいながら、すっと相手の懐に入ってしまう。相手が聞く耳を持つようになってから、ガリガリとお説教が始まる。最終的には生徒に言っている内容は同じなんだけど、間の盗み方で結果がずいぶんと違ってくる。

 どうすればこうした間の取り方が上手くなるのか、そのマニュアルはない。これは場数を踏むしかない。ただ、あえて縄跳びに入るタイミングはと問われれば、生徒から逃げず、生徒をよく見て一息待つ。その我慢と忍耐なんだろうな。

 G先生の授業改善も我慢と忍耐が必要だってことだろうな。