温泉高校のOBからブログに以下のコメントが届いた。

 

*出勤初日、日焼けした事務職員と温泉発掘のため校内に穴を掘る。

 

それでは、ようこそ! 40年前の高校へ。

 

温泉学校 

 初任校となったF高校は、いわゆる普通科の中堅高校である。1980年当時の都立高校は学校群制度のころで、学力を目安に地域ごとに割り振られた学校群を選んで生徒は受検していた。希望する学校群に合格すると機械的に学校が割り振られ、合格しても、希望の高校でないということでがっかりする生徒も多かった。

 行きたい学校を選んで受検するわけではないので、現在ように学校が独自の特色を打ち出して生徒を募集するといったモチベーションもなく、自由でのんびりとした校風の学校が多かった。

 教育委員会が威信をかけて造った厳格な規律と24時間管理体制のA高校とは対照的に、F高校は女子校にルーツをもつ、「自由」と「のんびりさ」が代表とも言える高校であった。とはいえ、そんなことはお構いなしに、教育への夢と希望を抱いて初出勤の日を迎えた。

 遙かに丹沢の山並みを眺めながら橋を渡ると学校があった。校門を入ると、校庭の隅で穴を掘っている、日に焼けた浅黒い職員が声をかけてきた。

「お前か、今度来た新米は」

「はい、そうです」

「かわいそうに。この学校にはろくな教員がいない。教員は自由な校風と言っているが、ただ何もしないだけだ。地域からは『温泉高校』とバカにされている。ぬるくて緩い。デモシカ教員ばかりだ。教員不足のどさくさにまぎれて教員になったという、免許のないモグリもいるらしい。年中組合のビラを配って歩いている教員もいるし、裸足で歩いて、裸でバーベルを上げているバカもいる。そのうち教員の実態が分かるだろう。あんまり期待するなよ。教員なんてそれほどいい商売じゃねえから。でも、生徒はかわいい。悪い生徒もいるが、中身は純粋だ。生徒は大切にしろ。ところでお前、柔道をやっているんだろ。力だけはありそうだな。ぼっーとしてないで穴を掘るのを手伝え!」

「何の穴ですか?」

「防空壕に決まっているだろう」

「防空壕?」

「うそだよ。暴走族が襲ってきたら隠れる穴だ」

「うそでしょ?!」

「うそだよ。本当はダメな教員を埋める穴だ」

「うそでしょ?!」

「うそだよ。本当は悪い生徒の落とし穴だ」

「もう分かりました。温泉を掘っているんでしょ。僕も野沢温泉にいました」

「お前、物分かりいいな。つべこべ言わずに手伝えばいいんだよ」

 

 あとで分かったことだが、穴を掘っていたのは事務主事のHさんで、穴は温泉ではなく生ごみを捨てる穴だった。Hさんは何もしない教員を刺激するために普段からよく嘘をついていたらしい。このころの学校は、焼却炉でゴミを燃やし、生ごみは穴を掘って校庭に埋めていた。まだダイオキシンという問題もなく、世の中全体が「なんでもあり」の自由な雰囲気のなか、生徒も伸び伸びと羽を伸ばしていた。