温泉から温泉へ

 

 東京の西のはずれにある駅を降りるとまわりは畑だった。こんな田舎に高校があるのか。それにしても、昨夜あの雪の中からよく自力で這い出すことができたものだ。人間、切羽詰まれば何とかなるものなのか。そして間一髪、夜行バスにも乗れ、採用面接にも間に合うことができた。これは運命だ。運命の歯車がこの高校に採用になるために回っている。

 採用面接に呼ばれたのはイギリスのパブリックスクールをモデルにした全寮制公立高校だった。校門をくぐるとメタセコイヤの並木が出迎えてくれた。

 面接で校長先生から、「あのメタセコイヤは本校の教育目標の象徴です。その生命力は雑草のごとく旺盛であり、その心は天使のごとく清らかである」そういう説明を受け、まさに自分が歩んできた棘の道も、この学校で働くために神様が与えた試練だった。これほど自分にあった学校はない。この高校に骨をうずめよう。そう決意を固めるのだった。

 数日後、高校から届いた速達を開くと、まさかの不採用の文字が目に飛び込んできた。またしても運命の歯車は狂ったように回るのだった。

 教員デビューは唐突だった。不採用の通知が来た翌日、別の高校から面接の呼び出しがあった。あと数日で新学期も始まろうとする3月の末である。柔道の教員が見つからず、突然の呼び出しで即日採用が決定した。

 その学校は生徒も先生も自由を謳歌している、地域からはゆるくてぬるい温泉高校と呼ばれている学校であった。

 温泉から温泉へこれが運命なのか。

 つづく