「すごいおいしいドリンク飲みたい。」

ひとりごとのつもりだった。

「あなたの夢を叶えて差し上げましょう」

しばらくすると、ドリンクを持ってやってきた。

「どうぞ、お召し上がり下さい」

「では、お言葉に甘えて」

「!」

一口飲んで、驚いた。

「何これ!」

「すっごくおいしい!」

相手は微笑を浮かべた

「そうでしょうとも。」

「もっと飲みたい!」

「すぐには、用意できません。」

「満月の晩に、またここでお会いしましょう」

「はい」

「あ、月の形のペンダントかなんか持っていますか?」

「持っています」

「では、それを身につけてきなさい」

「わかりました」

満月の晩がやってきた。

指定された場所で待っていたが

(あんなおいしい飲み物、どこから汲んできたんだろう?)

ゴクリよりもオランジーナよりも三ツ屋サイダーよりもウェルチよりも果汁たっぷりドリンクよりもおいしくて。

すごくおいしいのに、さっぱりとして、甘すぎず、それでいて懐かしいような、力強ささえ感じ…。

気になって周辺を探し回った

(回想)
「ドリンクを汲んでいる現場を見てはいけません」
(回想終わり)

「いた!」

そっと様子を伺う

古い井戸から、水を汲んでいた

(こんなところに井戸あったっけ?)

気づかれた

「見てはいけないと言ったでしょう?」

井戸も、その人が手にしていたドリンクも、一瞬にして消え去った

「おいしいドリンクは?」

「もう、二度と飲めません」

「あの井戸は?」

「お前達家族がいとも簡単に壊した古井戸です。」

「満月の晩に、ほんの一瞬だけ姿を見せたのです。」

「お前ときたら、満月の晩なのに、三日月型のペンダントなんかつけてきてるし」

「これしかなかったんです」

「そういう行動も、月の神様を怒らせたのかもしれません。」

「あの井戸は?」

「お前の父親が苦学生だった若い時分に、夜中に井戸水を頭からかぶって、眠気をさまして勉強した話は知っていますね?」

「はい。」

「その井戸です。」

「その井戸から汲んだ飲み物だから、あんなに美味しかったんですか?」

「また、飲みたい」

「もう、無理です。」

「お前は約束を破った」

「それに、そんな大切な井戸をさっさと壊したのはお前達でしょう?」

「私ではありません。

一体、誰が?」

その人は意味深に微笑むと、ふわりと消えていった


2013年10月12日 15:48