前回ご紹介した「挑戦する少女小説」で取り上げられているうち、まだ読んでいなかった「二人のロッテ」を図書館で借りてきました。わりと年季の入った所蔵が多く、自分の少女時代に合わせて高橋健二訳(1975年発行)を選びました。

 湖畔の夏季学校で、ミュンヘンから来たロッテと、ウィーンから来たルイーゼがそっくりなのにみんなびっくり。二人はすぐ仲良しになる。ミュンヘンで雑誌編集者の母と暮らすロッテと、ウィーンの音楽家の父の元で裕福だが放任状態で育ったルイーゼは、離婚した両親が双子をそれぞれ連れ子にしたのだと察知、互いの家の事情を綿密に情報交換したうえ、逆の家に、互いになりすまして帰る。

ここまでは知ってるわ!という流れだが、大人になって読んでよかったと思うほどストーリーは深くできている。母に育てられたロッテは髪はおさげに編み、しっかり者で料理も家計もばっちり。多忙な芸術家のもと奔放に育ったルイーゼは巻き毛を伸ばし、活発で行動的。それぞれ、相手が積み残している互いの家の問題を解決していく。ここまでは児童文学。

 

父親には再婚を考えている若い資産家令嬢の恋人がいて、このイレーネ嬢は連れ子が目障り。双子は両親に元のさやに納まってほしいので、頭の切れるロッテ(=ルイーゼなりすまし)はなんとか父の再婚を阻もうと奮闘する。

*2019年に区議団で行ったインペリアル・ホテルが場面に出てきた。レストランで周囲の白人客から人種差別的扱いを受けたことが想い出に(ホテルマンの対応は良かった)

 

現代のドラマだったら、お母さん側にも編集社に彼女に思いを寄せる若手イケメン君がいそうですが、二十世紀半ばではシンママは女扱いではなく、恋愛はご法度だったのでしょう。

 

髙橋健二の訳は古くて期待通り、ときにシビアすぎる挿絵も、昭和の小学校時代の学級文庫を思い出させてくれる。唯一「菊倍判の帳面」がわからなかったが、検索したら大判サイズのノートのサイズのことでした。

全てがめでたしのラストですが、子どもたちにとっては天敵のイレーネ嬢のその後が回収されずに終わります。現代なら「有名作曲家パルフィー氏から性加害!」とイレーネ嬢が雑誌社に売り込むかもしれませんが、それはまた別の話。

 

ちなみに、現実には子どものためとはいえ別れた夫婦がよりを戻すのはなかなか難しいかと…知っている例では男性はみな新しい若い彼女のほうを選んでいました。

 

女性のひとりとして、イレーネ嬢には「次行こう次!」という言葉を贈りたい。