実家のある亀有。
ぼくはこの下町風情の町で生まれ育ったわけだけれど、この町は自営業が多いせいか、人情味のある、住民同士の繋がりが強い地域だった。
「だった」と過去形で話すのは、駅前はすっかり開発され、周辺には新しい商業施設やマンションが建ち、子どもの頃に遊んだ空き地なんかは一つも残っていない。
当時活気のあった商店街も昭和の遺構(いや、平成か)みたいになっていて、近所の人とすれ違っても立話などする人は少なく、町はひっそりとしているからである。
ぼくが小さかった頃は家に鍵などかけず、どこからともなく近所のおばさんが現れた。煮物や漬物を持ってきたとか、病気自慢だとか。
外を歩いていれば必ず誰かに会うし、悪さをすれば親でなくとも本気で叱られた。
ぼくは人一倍、町の人たちに可愛がられたから、そんなことを思う時点で非常に罰当たりなのだけれど、この町の下町っぽさを鬱陶しくてダサいとずっと感じていた。
互いに干渉しないマンション暮しがとてもクールでスマートに映り、憧れたものである。尤も、マンション暮しが必ずしもそうではないのだけれど。
不思議なもので、時々この町に帰ってくると、疎ましく感じていた下町っぽさや失われつつある角かどの光景が、名残惜しく感じる。
『こち亀』には実在する店舗が登場したりするけれど、まさかそれを読んだ外国人観光客がわざわざ写真を撮りに亀有まで来るとは思ってもみなかった。
両津勘吉をはじめとするこち亀登場人物の銅像は、10年くらい前だったろうか、町興しの一環として、地元商店街と亀有香取神社が中心となり、計8つが建てられた。
因みに、亀有駅北口に交番はあるが〝亀有公園前派出所〟ではなく〝亀有駅北口交番〟である。
亀有公園は交番の裏手に実在する。
小学生の頃、亀有公園の遊具に頭を挟んで抜けなくなったことがあった。
亀有の香取神社。
詳しい経緯はわからないのだが、いつの間にか綺麗に整備されて、今では境内にシャレオツなパティスリー『ラ・ローズ・ジャポネ』まである。
町興しに参画し、神社自身も伝統と新しいものを融合させて、幅広い層に受け入れられるよう努力するなんて、やるな、亀有香取神社。
ところで、ぼくは普段からまったくと言っていいほどテレビを観ないので、芸能人とかに非常に疎い。実は仕事その他で色んな有名人と会ったことがあるのだけれど、それがどれだけ光栄なことなのか、いつもピンときていなかった。
ナマで見ることができて興奮したのは、メタリカとダライ・ラマくらいかな。
何年前だろうか、正月の夜に母、妹、妹の友人の4人で亀有のカラオケ店に行った際、隣の部屋で CHEMISTRY が普通に歌っていた。川畑っていう人が亀有出身らしい。客はウチと CHEMISTRY だけで、妹たちはキャーキャー騒いでいた。
木村カエラが2歳とか3歳のとき、同じ保育園で年長さんだった妹は、木村カエラのおばあちゃんがお迎えに来るまで遊んであげていたそうだ。(本人談、上から目線)
そんなこんなの亀有だけど、最近は子育て世代がとっても増えた気がする。
ぼくは隠居ライフを計画しているので、この町で暮らすことはもうないだろうけど、この先この町がどう変わって行くのか、ちょっと気になったりはする。