「又ファンが一人増えました」

ジュンが茶化す様に親指を上げた。


ギターのチューニングを終えて、タケシは8ビートのリズムを刻み始めた。コードはGからだ。そのリズムに合わせてジュンが手拍子を始めた。グッサンもミズホも手拍子を合わせている。

入口のドアが開いて3人の女性客が入って来た。彼女らも席に着いて一緒に手を叩いている。そしてタケシは歌い始めた。



♪何時ものように海へ出たら(髪をなびかせ)

ビーチサンダル Tシャツをも(脱ぎ捨てて)

今日はとてもいい天気 日差し浴びて走りだそう

でもお出かけなんだよ サーファーガール


エアーバッグを左肩に掛け(膝を伸ばして)

歩く姿に振り返るのは(シティボーイ)

今日はとてもいい天気 そ知らぬ振りしてウインクひとつ

そうお出かけなんだよ サーファーガール


心はいつでも サマータイム

こんがり素肌には…熱い熱い愛が…

サーファーガール 君の笑顔は

サーファーガール 君の笑顔は

サーファーガール 着物笑顔は

Ah~Ah サマーシーズン


ボーイフレンドは如何したの?(今日は一人かい)

お日様サンサン目を細め(手をかざして)

マンダリンカラーしたダイバーズウォッチ 見つめて

もう海に帰るの サーファーガール


心はいつでも サマータイム

こんがり素肌には…熱い熱い想いが…

サーファーガール 君の笑顔は

サーファーガール 君の笑顔は

サーファーガール 着物笑顔は

Ah~Ah サマーシーズン♪



エンディングでタケシはギター音をスライドさせて歌い終わった。











びっくりして、タケシはミズホを見た。ジュンとグッサンは笑っている。


「何か曲のエンディングみたい。よくあるでしょう?」

ミズホは、まだ手を胸の前で軽くたたいている。


「まあ、…チューニングって曲のエンディングかなぁ。」

とタケシ。


「私はギターと云うより楽器は何も出来ないから尊敬しちゃうな、ギター弾ける人って」


「タケシは自分で曲も作るんだぜ」

ジュンはミズホに言った。


「ホントに!凄い。シンガーソングライターだね」


「その通り。ではミニライヴお願いします。」

ジュンも椅子に座った。


タケシは、スリーフィンガー奏法のイントロで歌いだした。カウワイの曲で『午後の江ノ電』という歌だ。

ジュンは「えっ!」ともらした。


歌が終わって、直ぐに

「なんだよ、自作自演じゃないじゃんタケシ!」


「お前が持ち上げるからさ。」

タケシは半ば笑っている。


「なんだ照れてやんの」


「今のカウワイの歌だよね。聴いた事あるよ」

ミズホは頷いている。


「カウワイはここからでてプロになったんだ」

タケシは言った。


「知り合いなの?じゃ今度サインもらってくれる?」

たたいている手は顔の前に来ていた。












ジュンはアコースティックギターを持って

「さあ、タケシのミニライブの始まりです」

と言って、タケシにギターを渡した。


ギターはギブソンのハミングバード。このギターはグッサンの私物だが何時もステージの隅に置いてあって、常連の客やジュン。タケシなどは自由に弾いている。


「グッサン、このギター頂戴よ」

ジュンはグッサンいるカウンターに向かって言った。


「いいぞ、でもただではやらん。おまけして200万円でどうだ。」

グッサンは笑ってる。ジュンは、思わず飲みかけた水を吹きそうになった。


「200万!!」


「ビンテージだからな、グッサンこれどの位経ってるの?」

タケシはチューニングをしながら聞いた。


「かれこれ、40年位かぁ、買ったのが俺が高校生の頃だから。」


「グッサン!高校生じゃ買えねえよ、今でも。普通50~60万はするだろ」

ジュンはグッサンに言った。


「おいおい、買ったのは俺の親父さ、それをもらったんだ。」


「そうかぁ、じゃあ頂けねえなぁ。親父さんの形見だろ。」

ジュンはギターを見た。タケシも持っているハミングバードを見て、グッサンの方に顔を向けた。


「形見とは大げさだなぁ、大学の入学祝いの時に何が欲しいか聞いてきたので、これがいいと言ったら、しぶしぶくれたよ。」

グッサンはコーラを飲んで目を細めた。


「じゃぁ、もっと大事にしなきゃ、いつもそこら辺に置いてあるじゃないか」


「いいんだよ、ギターは弾いてもらってなんぼ。皆に弾いてもっらえばいい」


「そうか、でも俺は下手だから。タケシみたいに曲も作れないし、こう云ういいギターは上手い奴が弾いた方がいいのかもな…タケシ買えば?」


「バカ言うな!先立つ物が無いよ」

既にチューニングは終わっている。タケシは最後にハーモ二クスを鳴らた。

何故かそれにミズホは拍手をした。























程なくして、グッサンが出て来た。手には皿を2つ持っている。


「はい、お待ちどう様」

テーブルに皿を置いた。


炒飯だ。


「今スープを持ってくる」

グッサンは奥に下って直ぐにスープを持って来た。


「ありがとう、では頂きます!」

と言って、タケシは食べ始めた。


ミズホも続いて食べて

「美味しい」

と絶賛。


「だろう」

とタケシ。


グッサンは、奥に下っていていない。

食べ終わった頃を見計らってジュンが来た。


「今日はこんな感じかな、多分お客は君らだけかも」

とジュンは両手を広げた。


「ライブが無いとね」

タケシは水を飲んだ。


[ライブハウスなんだ。」

ミズホも水を飲んで言った。


「ああ、ライブ喫茶かな…厳密にはね」


「暇だからタケシ、何か1曲やってくれよ」

ジュンが小さなステージに手をやった。


「歌やるんだ」

ミズホはタケシを見た。







タケシは


「おう、タケシ久しぶり」

ジュンが手を振って近づいて来た。


タケシも手を上げた。

横でミズホが頭を下げている。


「今日は一人じゃないのか」


「ミズホって言います。よろしくね」

自己紹介を彼女はして、また頭を下げた。


「ああ、俺ジュンです。」

改まって、ジュンも頭を下げた。


それを見ていたタケシは、笑っている。


「何か可笑しいかぁ?」

ジュンはタケシの顔を覗き込んだ。


「いやいや、礼儀正しくてよろしい」


ちょっと間をおいて、3人は笑った。


テーブル席について、「あれを食べたいなぁ」

とタケシは店の奥に向かって言った。


奥からグッサンが出てきた。


「いいよ、ちょっと待ってろ…2人前だな」


「サンキュウ」

タケシはグッサンに向かって敬礼をするふりをした。


「あれって何?」

ミズホがタケシに聞き返した。


「メニューにない奴、裏メニューとでも言いましょうか」

もったいぶっている。


[ン~まあ、いいや。待っていましょう。」

少し考えて、ミズホはちょこんと座りなおした。










「さて、ディナーにでも行きますか?」

タケシは、ミズホの方を向いた。


「夕飯かぁ…いいですよォ。どこかいい所でもあるの?」

ミズホも彼の方を向いた。


「茅ヶ崎にめちゃくつろげる所があるから行こう」


二人は、駐車場に止めてあるバイクまで戻って来てた。タケシはエンジンを掛ける。チョークレバーを戻しながら、スロットルを半開きにして、エンジン音を整え軽く空ぶかしを3回、KDXは落ち着いた。


「結構大変なのね、エンジン掛けるの」

その光景を見ていたミズホは、なにやら頷いている。


「2ストだからね、それに年式も古いし、なにせカワサキだからコツがいるのです。」

説明するかの様にタケシは言った。


二人を乗せたKDXは湘南平の坂を下りて行く。コーナーがきついのでタケシは一人で乗る時より相当スピードを落として下って行った。

信号を左折して国道1号線に出たタケシはスピードを上げた。その時ちょっと前輪が上がりウィリーした時、「キャッ!」と後ろから声が聞こえた。そして直ぐにタケシのヘルメットを2度叩くミズホ、タケシは左手を上げて誤った。


バイクはそのまま上りの国道1号線を走って茅ヶ崎駅前を過ぎ程なく右折、タケシには走りなれた道だ。

『ウェザーリポート』が見えてきた。

何時も場所にバイクを止めて二人は下りた。


今日は何もライブは無い様で普通の軽食喫茶になっている。二人は中に入って行った。
















タケシはバッグから写真を出して、ミズホに渡した。

彼女はその写真を一枚一枚丁寧に見ている。そして全部見終ってかtら一枚を抜き取って

「これがいい」

と言って、タケシに見せた。

被写体のミズホがウィンドサーフィンのバーを握り目線は正面から左を見て、バランスよく帆と一体化している。なにより逆光なのだが、その光が波に反射してウィンドサーフィンとミズホを照らしている。


タケシは、その写真を受け取って

「やっはり、俺もこれがいいと思った。では引き伸ばしてパネルにしよう。」


「ホントに、ありがとう。」


「もっと大きくしてジグソーパズルにでもしましょうか」

冗談で言ってみた。


「売れるかな?」

とミズホ。


「冗談だよ、冗談!」


「決まってるじゃない、本気にしたの」


「いやいや…ちょっとだけ」

二人は笑った。


そして、日が沈んでゆく西の方を二人は見た。もっと西には富士山、夕焼けがとても綺麗だとタケシは思った。秋でもないのに空気が澄んでいてるからか、湘南平の高台にいるからかは解らないが二人は沈んでいく太陽を見ていた。









テレビ塔の展望台に二人は登った。その展墓台の回りは落ちないように格子状の金網が張ってあり、幾つもの鍵が掛けられている。最初若いカップルが願いを込めて掛けていったのが始まりだそうだ。


「ン~海が綺麗だ。天気もいいから富士山も見えるよ。」

ぐるりと見渡しながらタケシは言った。


「此処に来るとは定番ね。」

ミズホはタケシから貰った炭酸のグレープを開けながら言った。


「まあ、一人では先ず来ないけど春や秋など写真を撮りに来る事はあるよ。春は桜で秋は紅葉。此処に来る途中の斜面が綺麗なんだ。」


「じゃあ今は?」


「走っている時の思い着いた。このまま行くと西湘バイパスで小田原まで行っちゃうから、海がいっぱい観れる所といったら此処しかないでしょう!」


「なるほど、でも気持ちいいね。絶景だし。」


あたりはカップルが4組ほどいる、展望台にも2組いて、手を繋いでいる高校生風といかにもこれからプロポーズ云う様なカップル。

タケシとミズホは顔を見合わせて、展望台を降りた。


「上手くいくといいね」

ミズホは、振り返って小声で言った。


「ああ」


「気の無い返事」


「上手くいくさ、きっと」

タケシは慌てて言った。


二人は戻る途中の石のベンチに座った。そろそろ日は傾きかけて夕焼けになろうとしている。







ミズホを乗せタンデムでタケシは国道134号線を西に向かった。速度はタケシ一人の時より遅め、法廷速度での走行だ。ミズホが言っていた風を感じるには程よいスピードである。

KDXは茅ヶ崎を過ぎて、平塚の湘南大橋を渡った。虹が浜を過ぎた所で右折、国道1号線の交差点を直進して湘南平方面に向かった。

湘南平の坂は、200ccのエンジンに二人乗車では徐々にきつくなってきたがギアを落として何とか頂上の駐車場まで着いた。


「到着です。」

エンジンを止めて、タケシはヘルメットを取った。


「風が気持ちよかったぁ。」

ミズホもヘルメットを取った。


「さあ、海がよく見えますよ。」

タケシは歩き出した。


自動販売機で炭酸飲料を買って、テレビのアンテナ塔に向かった。


「まだ明るいなあ」

と言って、タケシは空を見上げた。


「でも天気は最高だね」

ミズホも空を見上げた。










午後5時を過ぎても日が差して明るい。5月から6月が日照時間が一年の間で一番長いので、まだ当分暗くはならないだろうとタケシは思った。

江ノ電の江ノ島駅前に彼はバイクを止めた。午後5時12分、藤沢行きの電車が入ってきた。グリーンの車両が2両、ドアが開いて人が降りてくる。その中にバイクのヘルメットを持ったミズホをタケシは見つけて、手を顔の横まで上げて振った。

ミズホは直ぐに彼に気づいた。


「待った?」

今日のミズホは、ピンクのT&CのプリントTシャツにスリムのブルージーンズ、手には白いジェットヘルメットと赤いウインドウブレーカーを持っている。小ぶりなヒップバッグに白いスニーカー、島ぞうりではない。


「時間ピッタシ、今着いた所です。」

タケシは言った。


タケシがミズホに連絡を入れたのが2日前、彼女は江ノ島で待ち合わせをしようと言ってきた。久しぶりに江ノ電に乗りたいのとバイクにも乗りたいと希望。タケシはヘルメットがないと云うと用意すると彼女は云った。


「中々いい写真が撮れたよ。」


「それは被写体がいいから?それともカメラマンの腕がいいから?」

ミズホは笑顔だ。


「ン~どちらもいいから・・・かな」

タケシも笑った。そして

「さて、どちらに行きますか。」


「海岸をずっと走ってみたなぁ」


「了解しました。」

タケシは、KDXを道路側に向けてエンジンをかけた。