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宝石ブルーコラボ小説
以前載せた『フィオレーネvsドスジャグラス』×『ハンター・ハザク・受付嬢』


「貴様が王か」
ならば行かねばならぬ。
「貴様を討たねば王国に明日はない!!」
騎士たる者、その義務を忘れてはならぬのだ。フィオレーネはそれでもなお孤高を保ち、牙を剥くドスジャグラスに、騎士剣を高ぶらせ突進した。
「この身を賭しても貴様を討ち倒す!」
だが、その決意は空しく。ドスジャグラスが嘴を突き出すのとフィオレーネが剣を振りかぶるのとは同時だった……

◇◇◇◇◇◇◇
彼女は己が命より王国への忠を貫き通す。剣尖を太古の王もかくやの形相に振り下ろそうとし、目前で口が裂くのを目撃した。骨さえ噛み砕きそうな牙、鉄鎧などものともしない鱗。そして何より恐るべきはその巨体と重量!
「ぐうっ……かは……!」
フィオレーネの体が軽々と持ち上がり、次の瞬間地面に叩きつけられた。受け身を取る事さえままならぬ。「がはっ!」
服の下の背中の肋が何本かひび割れる音さえ聞こえた。この威力、よほどの剛腕でない限り体力で逆転することは不可能だろう。すなわち、いかに長く地べたに臥せられるか……どちらにせよ、彼女に耐えられる程の打撃ではあり得ない。もはや体は弛緩し騎士剣を持っているのかさえ解らなくなっている。
それでも頭をもたげた先に、彼らの王が岸より姿を消していたのを見た。如何な俊足を持っても無事では済まない距離にいる。絶望的な推測が浮かぶが首を振り追い払う。あの距離で海に入れば命を落とす。ドスジャグラスは怪物故にまた自力で岸に戻るかもしれぬが、御子なら済むまい。フィオレーネの周囲には死屍が累々と折り重なっていた。救援さえ呼べば間に合う距離には川も見かけた。にもかかわらず今の今まで彼女が食い止めたのは彼女自身自身の『退けぬ!』という思いと『逃せば取り返しがつかない』という執念があったからに他ならない。それがジャグラスの最大の武器だった。騎士という職業に生まれたなら、逃れられる獲物などないのだろう。それでも構わない。彼女はまだ騎士として戦えることを誇っていたのだから。
その時ふと感じた涼風に身を委ねたフィオレーネは、周りが暗い事を不思議と思わなかった。そもそも先ほどの世に現る殺伐とした体験の為、視界が利かなくなっていたのだ。今更駆けつけてみても誰が理解してくれるだろう?せめて湖まで連れて行ってくれれば……頼るべき何も無い水辺に眠りたかった。

「フィオレーネ!」
若い男の声が自分の名前を呼び、腹に響く風音の中に何度も通った声音を聞き取り、そして彼女の意識にやがて靄が掛かった……

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ハンター「ハザクさん、今日はどんなクエストに行くんですか?」
ハザク「おう、そうだな。じゃあ、この『ドスジャグラスの討伐依頼』でも受けるか!」
受付嬢「えっ!?ドスジャグラスですか!?」
ハザク「なんだ、そのモンスターは強いのか?」
受付嬢「いえ……まあ……はい……」
ハンター「……なんか歯切れ悪いな」
ハザク「俺の最強を証明するのに手頃な相手だろ!文句あるのかよ?」
ハンター「いや、別に文句はないけど……」
ハザク「よし!じゃあ決まりだな!」
ドスジャグラスの討伐クエストを受けた二人は早速現地に向かった。すると、湖のほとりで何やら揉めている声が聞こえてきた。
ハンター「おい、なんか向こうで騒いでるみたいだぞ」
ハザク「おう!行ってみようぜ!」
二人が駆けつけるとそこにはフィオレーネがいた。王国騎士の一人でドスジャグラスを討伐に来たらしい。だが、彼女はすでに満身創痍でありとても戦える状態ではなかった。そんな時、ドスジャグラスが現れ襲い掛かってきた。フィオレーネは抵抗するが、力の差は圧倒的だった。
ハンター「おい!大丈夫か!?」
ハザク「おう!任せろ!」
ハザクはドスジャグラスに向かっていった。しかし鼻水垂れ流しのへっぽこなので、もちろん簡単には勝てない。それどころか逆に返り討ちにあってしまった。
ハンター「おい!大丈夫なのか!?」
ハザク「うおっ!?危ねえ!」
ハンター「ここは私たちに任せて、あなたは逃げてください!」
フィオレーネはその言葉を聞いて驚いた表情を浮かべたが、すぐに首を横に振った。フィオレーネは自分の命よりも王国への忠義を優先させる騎士なのだ。例え自分が死ぬことになろうとも、王国を守ることができるのであればそれで構わないと思っている。しかしそんなフィオレーネに対してハザクはこう言った。
「おいおい、無理すんなよ。ここは俺に任せろ」
フィオレーネはその言葉に戸惑いを見せるが、ハザクは続けて言った。
「いいから任せとけって!」
そう言うとハザクはドスジャグラスに向かって走り出したのだ。だがその動きはとても遅く、今にも倒れそうな状態だった。そんな状態で戦うなど無謀としか言いようがないだろう。案の定、ハザクはすぐに捕まってしまい投げ飛ばされてしまった。地面に叩きつけられた衝撃で鼻水を吹き出すハザクだったが、それでもなお立ち上がっていた。その姿はまるでゾンビのようだった。
ハンター「あいつ、なんであんなに必死になってるんだ?」
受付嬢「さあ?でも何か理由があるんじゃないですかね」
ハンター「まあ、そうだな。とりあえず助けに行くか」
ハンターはハザクを助けるため、ドスジャグラスに向かって行った。しかし、ドスジャグラスの力は強大で全く歯が立たない状況だった。このままでは全滅してしまうかもしれないと思ったその時、一人の人物が姿を現した。それは王国騎士の一人でありフィオレーネの仲間でもある女性だった。彼女はヘビィボウガンをドスジャグラスに向かって構えたが、その顔はどこか狂気に満ちていた。
「あはははははっ!!獲物よ!私の獲物だわ!」
ハンター「おい!あいつ様子がおかしいぞ!」
受付嬢「そうですね、ちょっと危ない感じがしますね」

ハンターは女性を止めようとしたが遅かった。女性はヘビィボウガンの引き金を引き、弾丸を発射したのだ。その威力は凄まじく、ドスジャグラスの体に大きな風穴を開けてしまった。だがそれでもまだ息はあるようで、ゆっくりと起き上がろうとしていた。しかし次の瞬間、女性の放った弾丸が再び放たれてドスジャグラスの頭を撃ち抜いた。そしてそのまま倒れて動かなくなったのだ。
ハンター「おい!大丈夫か!?」
受付嬢「ちょっと待ってください!様子が変ですよ!」
ハンターと受付嬢が慌てて駆け寄ると、女性は突然笑い出した。そしてそのままどこかへ走り去ってしまったのだ。ハンターたちは呆然としながらその後ろ姿を見つめていた。
◇◇◇◇◇◇◇

フィオレーネが目を覚ますとそこはベッドの上だった。どうやら助かったらしい。隣を見ると、そこにはハザクがいた。彼は鼻水を垂らしながら心配そうにこちらを見つめている。

フィオレーネ「うわっ!なんだお前は!?」
ハザク「おお!目が覚めたか!」

フィオレーネ「なんというおぞましい姿……悪魔め!私に近づくな!」
ハザク「おいおい、落ち着けよ。俺は別に怪しい奴じゃないぜ」


フィオレーネ「黙れ!寄るな!悪魔の言うことなど信用できるか!」
ハザクは必死に弁解しようとするが、フィオレーネは全く聞く耳を持たない。ハンターはそんな二人のやり取りを見て苦笑いを浮かべていた。受付嬢も苦笑しながら話しかけてくる。
受付嬢「あのですね。ハザクさんは、元からこういう見た目なんですよ」
フィオレーネ「なに!?そうなのか?」
しかし、よく見れば人間離れした姿をしているし、言動もどこかおかしい気がする。
フィオレーネ「貴様……やはり悪魔ではないか!その醜悪な姿はまさに悪魔の所業だ!」
ハザク「おいおい、それは誤解だってば……俺たちは仲間だろ?」


フィオレーネ「ふざけるな!何が仲間だ!?貴様のような悪魔と誰が一緒にいるものか!!」
ハザク「まあまあ、落ち着けよ」
フィオレーネ「昔おとぎ話で読んだことがある。悪魔というのは狡猾で冷酷で恐ろしい存在だと……」
ハザク「おい!それ俺のことじゃねえよな!?」
フィオレーネ「黙れ、この悪魔め!貴様は、まさしくそれだ!私の国を滅ぼそうとする邪悪な存在に違いない!」
ハザク「だから違うって言ってるだろうが!俺はただ、お前を助けたかっただけだ!」


フィオレーネ「ふん、どうだかな。どうせ私を利用して王国を攻め滅ぼすつもりだったんだろう」
ハザク「だから違うってのに……どうしたら信じてくれるんだよ?」
フィオレーネ「我が正義に異を唱える!それこそが悪である証拠だ!」
ハザク「うおっ!?」
フィオレーネは立ち上がると、腰に下げた剣を鞘から抜き放った。そしてそれをハザクに向けて突きつける。
フィオレーネ「この悪しき存在に正義の裁きを下すのだ!我が魂にかけて誓う!」
ハザク「おいおい、マジかよ……」
ハンター「まあ、ちょっと落ち着けよ。こいつは悪い奴じゃないと思うぞ」
フィオレーネ「悪魔を討ち果たし、王国に平和を齎すのだ!」
ハザク「おいおい、勘弁してくれよ……」
受付嬢やハンターはフィオレーネを何とか落ち着かせようと、桃毛獣のぬいぐるみをプレゼントしてみた。
フィオレーネ「なんだこれは?」
受付嬢「かわいいでしょ?どうぞ抱きしめてみて下さい」
フィオレーネ「……ふむ、なかなか悪くないな……」
フィオレーネはぬいぐるみを抱きしめながら満足げな表情を浮かべていた。
受付嬢「もっとギュっとしてみてください」
フィオレーネ「こうか?おお!これは素晴らしいな!」
その途端、桃毛獣のぬいぐるみの尻からガスが噴き出し
た。そのガスはかなり強力なもので、フィオレーネは眠気に襲われ眠ってしまった。

フィオレーネ「zzz……」
受付嬢「これは桃毛獣のオナラですね」
ハンター「なんでそんなもん付いてるんだ?」
受付嬢「まあ、気にしないでください」
ハンター「おい!フィオレーネが寝たぞ!」
受付嬢「今のうちにフィオレーネさんを王国に送り届けましょう」
ハンター「そうだな。それがいい」
受付嬢とハンターはフィオレーネをみかん箱に詰めると、王国宛てに発送したのだった。
受付嬢「これで一件落着ですね!」
ハザク「いや、全然解決してないだろうが!」
受付嬢「え?どうしてですか?」
ハザク「だってよ、あいつはまた来るかもしれないだろ?」
受付嬢「まあ、そうかもしれませんね。でもその時はその時ですよ」
ハザク「おいおい、そんな適当なこと言うなよ」
受付嬢「大丈夫ですよ。きっとフィオレーネさんは王国に帰れるはずですから」
ハザク「本当か?まあ、お前が言うなら信じるが……」
受付嬢「はい!信じましょう!」
ハザク「……ところでお前、さっきから何をしてるんだ?」
受付嬢「ああ、これはですね。桃毛獣ちゃんたちの日記を書いてるんです」
ハザク「なんだよそれ……」
受付嬢「えへへ、かわいいでしょう?見てくださいよこの絵姿!」
ハザクは呆れながらそのノートを覗き込んだ。するとそこには可愛らしい桃毛獣のぬいぐるみの絵姿が描かれていた。しかしよく見るとそれはただの絵ではなく、フィオレーネがぬいぐるみに変身した姿だった。
ハザク「……おい、これ……」
受付嬢「はい?何か問題でも?」
ハザク「いや……なんでもない……」
ハンター「まあ、とりあえず一件落着ってことでいいんじゃないかな?」
ハザク「ああ……そうだな」
ハンター「じゃあそろそろ帰ろうか」とハンターは言い、二人は家路につくのだった。
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