移植治療で病院を移る間際に、リスパダールなる精神安定剤を手に入れたわけだが、治療が終わってよほどの事がない限り飲まないだろうと思っていた。

先生へ憤りもあったし、知らない薬は飲むのに勇気いる・・・、特に頭に効くやつは。

それに、ネットで調べてもそれ以上の効果も見当たらないしね。


一時退院の後すぐさま大学病院へ。

流石に2,3週間軟禁されるってこともあって、荷物が増える事はあっても減ることはなかった。

処方されていた薬をスルーで渡す。

血液内科以外に、栄養士、リハビリ、精神科の問診が続く。

っと言っても気分を聞かたくらいだが、リスパダールを処方されてる事にしか興味がないみたいだ。


かくして順調に軟禁生活はスタートされ、抗がん剤のテラドース投与を経て下痢と不眠に苛んでしまう。

とにかく眠れない。薬を飲んでも二時間だ。

インターンはあまり考えず、処方されてる薬であれば何でも使おうとする。

大いにアタPを進める。

時間的に眠剤は進められないので、それ以外だったら未知の薬だろうと何だろうと進めてくる。

とりあえず、睡眠しましょうと口にする。


まさか、こんなに早く、それも全然違う用途狙いでリスパダールを試すとは思ってもみなかった。

それでも、数時間前に飲んでいた眠剤の影響もあってか、気がつくと朝になっていた。

不調の波に拍車がかかり、気分的には最悪の様に眠いのに、意識的には眠ることが出来ない。

瞼が重くて仕方がないのに、脳味噌が勝手に活発をおびる。

隣人が大音量でエヴァを見てる。

それについて考えを巡らす。

一抹の不安を抱えながら眠れない夜を過ごす。

眠れない、眠れない。

起床時間を超えて朦朧とする。

突然それは発現する。

耳元を大音量が駆け巡る。

弱った頭脳が悲鳴を上げる。

心が乱され、ヒステリックな霧に包まれる。


走り出したそれは、嫌がらせと言う最悪の形に発展して、心をかき乱す。

バカ看護婦の一言が、更に深い闇へと叩き落とす。


もう、いいや・・・。


挫けた心のままに幻聴であることを受け入れると、すぐさま心療内科の医師の指示が電話で伝えられる。

眠剤とアタPそれでだめならリスパダール追加・・・、それが今夜のアラカルト。

アタPを静注しながら逆算して眠剤を服用する。

はっきりと聞こえていた音楽が、次第にぼやけていくのが解る。

おでこの中心にゴミ箱が現れて、音をドラッグするとディレイ出来ちゃう。

聞きたくない音は自由に消すことが出来るのだ。

摩訶不思議とも思える出来事に、心は素直に反応する。

激しく憤っていた気持ちも、何時しか多幸の霞みに包まれて、知らないうちに眠っていた。