本当はうーご君って言って、患者が身体を起こしたりするとナースコールをしてしまうセンサーなんだけど、こいつが人権侵害甚だしいったらありゃしない。

熱が38度以上になると歩いたりするのに介添えしなきゃいけないのが大学病院の規則らしく、ふらついて歩き辛い時や無意識に意識が朦朧としてる時など、強制的に看護師を呼び出して手助けさせるのだが、転倒防止の責任回避だけなんじゃないかって雰囲気がありありだ。

しかしこのむーご君、起き上がると紐が引っ張られ本体に刺さってるプレートが抜けるとナースコールっていう仕組みの為、目的と関係のないところでよくナースコールしてしまう。

紐が短かったり身体のつける場所によっては、布団を直すのについつい身体を起こしただけや寝返りをうっただけで、簡単に紐が抜けスイッチが入ってしまう。

そのたびに忙しくても飛んで来なくてはいけない、患者にも看護師にも迷惑な作りなのだ。


うーご君との出会いは幹細胞採取の入院で、採取後発熱した時だった。

寒気も関節痛もまったく伴わない熱が続いて38度を超えてしまった。

解熱剤が欲しかったので看護師にそれを告げると、早々にうーご君を装着させられた。

当然、意識もはっきりしてるし足腰もしっかりしてるので、ついつい自分勝手に動いてしまう。

寝返りもそこそこ、寒かったので布団の直す。

その都度、プレートが抜け、看護師を呼び出す。

どうやらボタンとうーご君ではナースコールの音が違うらしく、ちゃんと呼び出してから動いて欲しいと念を押される。

そんな時に限って繰り返しちゃうのが人の常で、それからも勝手に動いていたら、とうとう看護師を怒らせてしまった。


手出すぞ・・・


首根っこにうーご君の紐をぶら下げて、ビビっちゃったね。

大学病院って恐ぇって、震えて眠ったよ。


時は流れて、幹細胞移植治療の真っ最中、とうとう解熱剤を飲んでも熱が38度台を下回らなくなった時、うーご君との再会を果たす。

しかも同じ看護師ときた。

ほんとに病院の規則なのかこの看護師の趣味なのか、彼以外の看護師はうーご君に消極的だ。

付けてるこっちが悪い様な態度まで見せるやつもいる。

まぁ、流石にこの時は不本意に動きまわることはしなかったが、2メートルとない眼と鼻の距離のトイレである。

しかも下痢ピー、行きます! と言って行くよりは突然の波に逆らわずに行きたくなるわけで・・・、羞恥心もあるしね。

やっぱり、何回かは勝手に行こうとしたり、ちょっと動いてプレートが取れちゃったりしてたら、幻聴事件でお騒がせしたのもあってか、看護師ついに切れる。


手出すぞ・・・


恐いよ。

深夜、熱は40度を超えたらしく、ステロイドの解熱剤を打とうとした看護師たちを拒否してもみ合いになったらしい、全然覚えてないけど。

朝、2本の静脈カテーテルが綺麗に抜けていた。

噂によると、引きちぎられていたのだという。

いったいどうすれば丈夫な点滴の管を引きちぎる事が出来るのだろうか?

止まった様な時間の中、ひたすら後処理をしてくれている彼。

プロフェッショナルだね。