この間、駅で偶然、中学の同級生に遭った。
「あれ…石崎裕隆?」と声をかけてくれたのはKだった。
かれこれ四半世紀ぶりか…懐かしかった。
あの頃、Kは僕の話をよく聞いてくれた。
TVのこととか、ゲームのこととか、全くたわいのない話題ばかりだったが、
彼はいわゆる「聞き上手」で、彼の前では自分でも不思議なくらい、饒舌だった。
そのKが突然転校してしまったのは中学2年の終わりだった。
理由は「家庭の事情」としか説明されず、Kとは連絡も取れなくなった。
僕は話し相手がいなくなって、しばらく学校へ行くのがつまらなくなった。
僕はKに、そのことを話した。
Kはあの頃と同じように、僕の話をよく聞いてくれた。
そして、「あの時は、ごめん。こっちも大変だったんだ…」と、ちょっと困ったような、照れたような顔を見せた。
僕は「しまった」と思った。
彼の「聞き上手」に甘えて、今さら言っても仕方ないことを言い過ぎてしまったと反省した。
間もなく、Kの乗る電車が来た。
彼は「石崎裕隆、元気そうで良かった。
またどこかで…」と言って、乗り込んで行った。
そして、窓の向こうで笑顔を見せた。電車は去って行った。
結局、Kの連絡先は聞いていない。
それでも、本当に「またどこかで」遭ったら、今度は僕が彼の話を聞いてあげよう…と思っている。