今度の治療依頼もまたまたトラです。 トラの麻酔は上級編なので
いくらネコの仲間だと言ってもいつもの猫のようにはいきません。
一般的に、手術などでかける麻酔は全身麻酔と局所麻酔の二つです。
局所麻酔は脳への抑制が無いので、意識を失わず呼吸や心臓への影響は精神的なことや薬剤アレルギー以外ではありません。基本的には安全度が高いですがかなり簡単な処置しかできません。全身麻酔では意識を完全に奪うため脳の機能を停止させます。 血圧の変化や心拍数の減少、呼吸の停止などが起こります。
全身麻酔はそのステージで4期に分類されます。
第1期は痛覚のマヒ。 第2期は興奮期と呼ばれ2つ合わせて導入期ともいわれます。第3期が手術期で1~4相に分かれます。第4期は延髄麻痺期で呼吸が完全に停止します。
麻酔をかけるためには麻酔の4要素というものを満たす必要があります。 4要素とは「鎮静/催眠」、「鎮痛」、「筋弛緩」、「有害反応の抑制」です。
この状態を維持するように麻酔薬をいかに安全に使うか、また被麻酔者の状態によっても大きく変わります。麻酔薬ではこれらの4要素を満たし、呼吸器系や循環系を維持することは簡単ではありません。
猛獣の場合には、麻酔前に事前の検査ができません。 また、麻酔がかかり不動化するまで危険でそばにも近づけません。麻酔が万全にかかって初めて酸素吸入ができ、点滴や心電図のモニターを設置できます。
一般的な麻酔手順の逆となる極めて危険な方法を取らざるを得ないのです。
皆さんは、人里に出没した野生のクマに麻酔銃を撃つのをテレビ等でご覧になったことがあるでしょうか。麻酔銃で麻酔薬を注入した注射器を飛ばすわけですけれども、鉄砲の玉のように小さくはないうえに、そんなに遠くには飛びません。 また、命中してから相手が動かなくなるまでに時間もかかるし、体重が大きいですから 一発では眠ってくれないことの方が多いのです。
私は、基本的に一人で動物園の屋外でこれを行うわけです。
体重さえ正確にはわかりません。トラだと150㎏~200㎏くらい。
手術室もガス麻酔器もありませんからその場ですべてを行わなくてはならないのです。このような危険な麻酔は通常では行われることはありません。
写真1 麻酔銃を撃って5分後、トラさん座りました。
写真2 麻酔がかかりました。急いで処置をします。
写真3 顔だけでもこんなに大きい!怖いよ~
写真4 万一の防御用にトラさんの顔に特製 自作マスクをかぶせます。
写真5 トラの後ろ足の肉球。私の手のひらくらいあります。
写真6 麻酔時間は40分で終了。処置も何とか終えて安堵。麻酔の拮抗薬を注射して覚醒を待ちます。
写真7 顔だけでもかなり重いです。笑っているけど余裕はありありません(笑
30分後には覚醒し予定の治療と検査を2時間で終了しました。
あ~疲れた・今日もGood Job!寅さんまたね~
麻酔や処置の様子は以下から見れます。
採血の様子は以下から見れます。