「春陽堂乱歩文庫の表紙はキツイ☆」って言う女子にはアルゼンチンバックブリーカー | 石川くんのドロドロ地獄

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映画と音楽と本をドロドロ…

とあるDVDレンタルショップ。

『キャタピラー』のジャケット片手に苦虫どころか東国原秀夫を
噛み潰したかのようなツラで悩む人をあなたが見掛けたなら
彼は乱歩オタクである。

もしくはそれ、僕である。


岩松幸二が監督し、寺島しのぶが好演し、キネ旬でバカ誉めされ、
ベルリンで鬼の様に大絶賛されたこの映画。

原作が江戸川乱歩の『芋虫』であることは、(本当に)びっくりする位
誰も語らない。


僕は江戸川乱歩が大好きだ。


『芋虫』はもちろん読んだ。
でも『キャタピラー』はまだ見ていない。

借りる寸前までいくものの、結局『忍者VS芸者』とか『ロボメイド』みたいな
しょーもない映画を片手にウヒャウヒャやってる自分が居るのである。

理由はある。

乱歩映画は、「危険」なんである。

なぜ危険なのか
それは乱歩文学が、実はぶっ飛ぶくらいしょ~もね~からだ。


誤解されそうだからもう一度、今度は太字にし、更には中坊の期末テスト直前
社会の教科書の如く赤字を以てして再び書く。


僕は乱歩作品が大好きだ


江戸川乱歩の文学世界は、くっきりとした光と闇に分かれているところが
大きな特徴だと、僕は考えている。


乱歩の光は日本文学会に、まさに光明を指す。

大正時代、都市機能や住宅設計が欧米諸国と根本から異なる日本には、
推理探偵小説は根付かないというのが、大正文学会の常識だったようだ。


不可能と思われれる犯罪(いわゆる「トリック」)をどのように日本の住宅
都市設備に当てはめるか、前例が全くないからだ。

しかし乱歩は、『D坂の殺人事件』を皮切りに、この不可能を可能にする。

大正日本の住宅事情や都市建設更には衣料習慣にまで着目したトリックを、
発表し続ける。

日本推理小説のエポックメイキングとして、乱歩の存在は不可欠なんである。


乱歩の光の光源は、明智小五郎という名探偵すら、この世に誕生させた。

『D坂』の時は天パーで、ワンポーズをユ○クロとし○むらで揃えて、
でも聴いてる曲は意外にPFMとか細野晴臣なんかで、
えっ!!お前それどーいう趣味!?みたいな明智だったけれど、
(何この例え)


探偵業で成功すると、麻布に事務所兼自宅を構え(事実)、
ダンヒル辺りで冗談のような値段のスーツでワンポーズを揃え、(事実)
ストパーを当て(多分)、
iPodの中身が殆ど浅川マキかジャコバスになったりするのである。
(だから何この例え)


少年探偵の小林君と名探偵明智小五郎は、少年探偵団として、
怪人21面相を追い、日本に探偵小説の礎を築いたのである。


しかし光が強ければ闇もまた濃いものだ。

乱歩は怪奇小説において、まさに鬼才だった。


異常心理・異常性欲・奇形・人体改造・残酷趣味・フェチズム・SM心理
などなど…

エロ・グロ・怪奇を書かせれば乱歩はそれこそ狂気の如く筆が休まず、
この怪奇性こそが乱歩の真骨頂と考える人も少なくない。

冒頭に挙げた『芋虫』は、
軍人である夫を後天的なサディスト。
銃後の弱い妻を後天的なマゾヒストとし、
夫が両手両足や声帯までもを失ったことで、両者のSとMの
関係性が逆転し、暴走していく様を描いた、名作である。

更には、乱歩の闇の面は、『パノラマ島奇譚』という奇跡の様な物語を
この世に生み出す。

売れない小説家が資産家に成り代わり、自身の描く理想の世界を
この世に作り出すというこの一大名作は、乱歩の最高傑作として、
ドス黒い輝きを放っている。

掌編も負けてはいない。

人と交わることが苦痛ですらある主人公。
絶世の美女である舞台女優に、彼は報われない恋をする。
彼女は振り向かない。
彼女を殺すことで恋を手に入れた主人公は、彼女に化粧を施し、
キレイにしようと奔走する…。


この『蟲』という物語は、乱歩のダークサイド濃縮30倍青汁の様な
凄まじい迫力を放っている。

『D坂』のようなシステマチックなプロットや、『パノラマ島』のような幻想的な
筆が、全て主人公の狂気性や腐っていく恋人の死体に注がれ、
「蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲…」
なんてセリフが出てくるもんだから、
あれ!?夢野久作読んでんだっけ今俺!?
みたいにビックリする。


乱歩の光の部分が、推理小説として小学校の図書室でガキんちょの心を
ときめかせているように、乱歩の闇の部分もまた、多くの大人たちを
ときめかせている。

ミュージシャンや漫画家、映像作家が度々乱歩作品をモチーフに
様々な作品を生み出すことも、乱歩が発信する異常なインパクトに、
様々な表現者が呼応するからだと思う。

でも。

でもである

冷静になって考えてみる。

この平井っておっさん…(乱歩の本名ね)

言ってることしょ~もね~じゃねーか!!!!


れーーせーーになって考えてみると、このおっさんのホラ話、
とてつもなくぶっ飛んでるんである。

西荻で飲んだ後吉祥寺のカラ館までの移動中、ペラい後輩が話す
ペラいバカトークにも似た水準のオタンチンストーリーばっかなんである。


『屋根裏の散歩者』
覗き趣味のにーちゃんが屋根裏で覗き敢行!!
アレコレやってるうちにエスカレートしちゃって最終的に見つかって説教!!
S1辺りが単体で出しそうなエロDVDのような展開!

『鏡地獄』
ちょっと頭の残念なアングラ兄ちゃんが「究極の母体回帰」みてーな
こと考えて360度鏡張りのデカい球の中で終始ゴロゴロ!!
ネコか!

『人でなしの恋』
ダッチワイフの話!!
よそで話せそんなもん!!


いかがだろうか?

大時代的なタイトルと、圧倒的な乱歩の筆力で我々は翻弄されてしまうもの
だけど、冷静になると、だからなんじゃい!!と、ちゃぶ台をひっくり返し
たくなるような、アホストーリーの目白押しなんである。

他にも『大暗室』『防空壕』『人間椅子』や『黄金仮面』など、
笑い飯のダブルボケ・システムを遥かに凌駕するすっとぼけっぷりが
爆発する名作がまだまだ存在する。


乱歩という人は、イマジネーションとその表現力のバランスが、
もうメチャクチャなことになっているのだと思う。

冷静に考えると西荻・高円寺居酒屋級バカトークも、乱歩の
フィルターを通すと、幻想と怪奇とデカタンスが満ち溢れ、
たちまちと名作と化してしまうのではないだろうか。


だから、乱歩の映像化は危険なのだと僕は考える。

そりゃそうだ。

もとを辿れば、「闇太郎」とか「まんねん」(居酒屋の名前です)で、
ヘロヘロになったバンドマンが話すバカトークと、中身はそれ程
違わないのだから。

だから映画監督たちは、そこをデコレーションする。

エロやグロでデコレーションする昔気質も居れば、『乱歩地獄』の
様に、ファッションや映像美で脚色する若手も居る。


しかし、僕がそうであるように、乱歩にハマるようなひねくれ者達は
思うのだ。

「何かたりない…。」


『キャタピラー』レベルの巨匠になると、持ち出す武器も違ってくる。

「反戦」
「人間の心の闇」
「剥き出しの獣性」

そんなテーマを盛り込んでくるのである。

僕はそんな姿勢はすごく大好きだ。

巨大な原作に負けず、考えて考えて考え抜かれた作品は、
どこかに光るものがあって、すごく楽しめる。

やっぱ映画ってCGとか製作費じゃなくて工夫だよな!
と感動できる。


(考えることから逃げて、音楽とスタイリストとカメラさんに逃げた
『さくらん』は、だからクソつまらない。
虻川監督は『ニンジャタートルズ』実写版を見て坊主にする様に。)


でも、僕は乱歩のしょーもなさを維持したまま、あの圧倒的な世界観を
再現した乱歩映画をまだ知らない。

世界観やアンビエントなニュアンスを武器に出来る音楽や文学とは違って、
映像作品の難しさはここにあるんだと思う。

でもだから、期待値は上がる。
だけどすかされる。

乱歩映画に付き物の「なんか深い感じ」「おしゃれ感」「エログロ」
確かにそういう要素はあるけれど、全てではない。

センスの欠片すらない、あの凶暴な空気感の再現を、乱歩ファンは
待ち望んでいると思うのだ。

アカデミックな思想やファッションやエロやグロに逃げない乱歩映画を、
僕は待ち続けている。


(キムギドク先生、次回作そろそろ『孤島の鬼』なんかどうスか?)




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