。。。前回からの続き
前回は、どうやらシマノ振出し投げ竿の最上位はスピンパワーからプロセレクトへ代替わりしたようだ、というお話でした。今回も”元”筋金入りのシマラー、いやシマリストで、平成四年の現在はガマラー(しかし未だ実釣経験なし)を目指して準備を進めながらも、休日は家庭菜園がご趣味とおっしゃる奈良県にお住いの会社員、たっくうさんが、愛憎相半ばするスピンパワー・レクイエムをお届けするのでございます。
昨年発売されたプロセレクト425CX-Tは定価74,200円です。前回の日記でも触れましたが、平均的な給与所得者で子供二人、住宅ローンを抱えながらも趣味は投げ釣り、などという方を想定すると、3~4本の竿を並べることが多い「遠投置き竿釣り」師にとっては、このあたりの価格帯が購入可能な上限でしょう。
ちなみに過去の振出トップモデルの価格(定価)は以下の通りです。
・ハイパワーXプロセレクト405CX-T:43,400円(1985年)
・ツインパワー425CX-T:48,500円(1991年)
・ファインセラミック425CX-T:55,000円(1995年)
・初代スピンパワー425CX-T:56,000円(1997年)
・二代スピンパワー425CX-T:75,000円(2005年)
・三代スピンパワー425CX-T:95,100円(2012年)
1985年のプロセレクトから1997年の初代スピンまでの12年間で価格は30%程度値上がりしていますが、そこから三代目スピンまでの15年間では実に70%近いハイパーインフレです。
厚労省の発表によると、三代目(ピンク)スピンが発売された2012年は、初代がデビューした1997年比で平均給与所得額が12.7%も下がっています。これは2009年に起きた世界同時不況の影響ですが、そんな時期にシマノは同期比で70%も値上げした「遠投置き竿釣り」用の竿を発売しちゃったわけですね。ホントおつかれさまでございます(´_ゝ`)
シマノという釣り具メーカーは他メーカーに比べると、技術主導型というか、唯我独尊というか、とにかく我が道を行く印象がありまして、時々とんでもない名機、名竿を出すかと思えば、市場環境を無視したとしか思えない商品開発で大コケするケースもしばしばみられる印象があります。「遠投置き竿釣り」なんてのもシマノの造語で、他メーカーのWEBサイトには全く出てきませんし、「新世代先調子を『搭載』」とかね、言葉のセンスが独特です。
<2007年のカタログ。スピンのキャプションには既に”遠投置竿釣"”とあります。>
残念ですが今後四代目振出スピンが発表される見込みは極めて低くなったと思わざるを得ません。シマノのwebサイトに掲載されているプロセレクトのインプレッションにも「ハイエンドモデル『スピンパワー(振出)』の流れを汲み」としているように、スピンパワーを発売するならプロセレクトよりも更に高価にならざるを得ません。しかしそんなものを買い揃えられるキャスターはごく少数でしょう。メーカーは逆立ちしても投資回収が見込めず、開発稟議すら通らないと思います。夢みたいな事言ってんじゃねーよってわけです。
プロセレクトの開発は三代目振出スピンの反省を元にスタートしているはずなんです。それが最終的に「四代目スピンパワー(振出)」として世に出なかった理由は知る由もありませんが。。。しかしそこを敢えて想像してみましょう(^_^)v
仮説Ⅰ:「俺が悪いんじゃない」説
我々サラリーマンの世界にはよくある話なんですが、「自分の判断ミスだということを認めるわけにはいかない」ので他に原因を無理やり作って、それを押し通してしまうパターンですね。
三代目振出スピンは竿としての性能は超一級だと思います。ただし、営業的に成功とは言えず、その原因を作った偉い人が必ずいるはずなんです。会社だから。
下の人間はだいたい失敗の原因はあれだろう、という共通認識があるのですが、決裁した当の本人からは全く違う原因分析が出てくるわけです。「全然違うだろーがそれーww」と皆思ってるけど、下を向いて誰も何も言えない、というやつですね。
「市場に受け入れられなかった「スピンパワー」は廃して、新たに「プロセレクト」として再出発する!」とかなんとか。こういう事を平然と言えないと、大企業ではなかなか偉くなれないもんなんですよ。
仮説Ⅱ:「元々やめたくて仕方なかった」説
前回の日記で、そもそもスピンパワーという商品名は1995年にシマノが吸収合併したNFT社のブランドで、会社の譲渡はNFTブランドを残すことが条件だった、というエピソードを書きました。
真偽のほどは判りませんが、本当にそのような事があったとしたなら口約束ではなくて当然契約書か覚書として書面を作るはずなんですね。
契約書の「乙」がシマノだとして、じゃぁ「甲」は一体どなただったんでしょう?
NFTは上場企業ではなかったはずなので、もしかすると「甲」は個人の方である可能性があります。27年も前の事ですから、不謹慎ですがその方がお亡くなりになって、契約そのものが失効した、という可能性が考えられるのですね。
NFTの技術が欲しくてやむなく残した「スピンパワー」だが、マイナージャンルとは言えトップモデルの商品名が外様じゃぁ恰好がつかんだろう、と常々考えていたところ契約の縛りがなくなったと。
そこへもってきて三代目スピンは商業的な成功を得られなかったことも後押しして、「プロセレクト」を復刻させた、このようなストーリーです。
これが当たってるとすると、次のツインドラグパワーエアロは「パワーエアロ・プロセレクト」になるはず。。。かな?(^_^;)
仮説Ⅲ:「愛しすぎて許せなかった」説
これは一番可能性として低いのですが、去年発売された、カーボンの繊維が透けて見えるあの竿(プロセレクト)を「スピンパワー」として世に出すことが社内で認められなかった、という説です。「スピンと言えばシルバーに決まってんだろーがなんだこのしめ縄みたいな竿はー
出雲の国譲りかオマエはー
(意味不明)
」「ヒィ~ごめんなさーい
(なんで怒られてるのか判んないけど)す、すぐに修正しますぅ~」というパターンですね。
新製品の開発スケジュールのなかで商品名が決まるのは最後の最後、という会社は結構多いんですよ。新製品の開発には守秘義務がありますから、それまではコードナンバーで呼んだりします。だから発売直前に商品名が変わることはそれ程おかしな事ではありません。この上司はスピンを愛しすぎて、シルバー以外は認めなかった、というわけですね。これはないか。。さすがに(-_-)。
いずれにせよ、シマノさんはユーザーが感じているほどには「スピンパワー」という名前にこだわり、というかビジネス上の付加価値を認めていなかった、というのは驚きでしたね。
<2007年の別冊関西の釣り 投げ釣り倶楽部春夏号。イカプロ名人も当時はスピンユーザーだった様子です>
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話は全然変わりますが、Miniってクルマご存知ですよね。僕らの世代ならミニといえば軽自動車よりも小さな英国製の自動車で、1959年から40年間一度もモデルチェンジしなかった↓↓↓こんなクルマでした。ジョン・クーパーがチューニングしてラリーで大活躍した「ミニ・クーパー」はそれほど自動車に詳しくない人でも名前くらいは聞いたことがある、というくらい有名だったんです。
<ミニ・クーパーS:ラリー・モンテカルロ>
ところが当時ミニを製造していたローバー社は慢性的な経営不振に陥り、BMWに買収されることになります。ローバーを買ったBMWがまず最初に取り組んだのは何だったと思いますか?ミニのニューモデルを開発することですよ。要するにBMWはローバーという自動車メーカーよりも「ミニ」というブランドが欲しかったというわけなんですね。
かくして発表された新しいミニは大ヒットしました。往年のスポーツモデルである「クーパー」やステーションワゴンの「カントリーマン」も復活させて、今や日本でも多くのディーラー網が整備されるなど、たいへんポピュラーなクルマに成長していますよね。
何が言いたいかというと、英国の本家本元が気付かなかった「Mini」というブランドの付加価値に、ドイツ人が目を付けて大成功した、というお話なんですよ。
この成功が、伝統的なもの、変わらない、不変であることの価値、といったものを見直すきっかけを作ったと思うんです。「スピンパワー」も同じで、このままでいくと商標が塩漬けになるのは火を見るよりも明らかです。なので同業のメーカーさん、商標をお買いになりませんか?というご提案を差し上げたいのです。
がまかつさんなんかどうでしょうか?権利を買い取ってスピンを復活させる、このストーリーはなかなかの商売になると思うんですがいかがでしょうか?
がま投 スピンパワー 30-430イカしてると思いますよ。
◇かつて発売されていた振出トップモデルの価格は
塾長先生の広島投げ釣り日記を参考にさせていただきました。
この場をお借りして御礼申し上げます。