【191129】三木清 東亜協同体 最終
新日本の思想原理 続編 1939年発表 (80年前)
緒論
① 唯物論と観念論とを止揚した一層高い立場が要求
実践的立場の必然性
① 協同主義は実践の立場に立つものである。新しい政治組織の建設といい、生産力の拡充といい、新文化の創造という、それは凡て実践に俟たねばならぬ。
実践的立場の具体性
① 実践の根本的規定は、物を作るということである。それがいかなるものであれ、政治上の制度のごときものであれ、―――教育や修行によって人物を作るがごときことも一つの実践と云わねばならぬ。
② 八紘一宇の精神は日本民族の永遠の理想である。
理論と実践
① 理論と実践とは相互に制約し合いながら発展するのである。
東洋的伝統との関係
① 古来東洋においてはつねに実行が重んじられてきた。
協同主義の実在論
① 実践の具体的な立場に立つ協同主義の哲学は、その実在の見方においても具体的でなければならぬ。それは唯物論の抽象性をも観念論の抽象性をも超克した真の現実的なたち何立つものである。
現場的立場
① 協同主義の哲学は、唯物論並びに観念論の抽象性を克服した具体的な立場に立たなければならぬ。
② 人間は創造的社会の創造的要素である。主体としての社会にとって人間は手段であるということができる。
③ 自然の歴史と人間の歴史とは一方非連続的であると共に他方連続的である。人間も自然の一物であり、自然と社会とは世界を成し、この世界は歴史的である、自然も技術的であると見ることができ、人間の技術ある意味において自然の技術の継続である。
東洋思想との関係
① 東洋哲学におけるもっとも有力な伝統は、唯物論でなく観念論でなく、つねに物心一如というが如き立場であり、また主観主義でもなく客観主義でもなく、つねに主客一如というが如き立場であった。唯物論と観念論、主観主義と客観主義を止揚するものとして協同主義の哲学はこの伝統につながり、これおを発展させるのである。
協同主義の論理と認識論
① 従来有機体説といわれたものと弁証法といわれたものとの綜合の上に立つ具体的な弁証法である。
協同主義の社会観
個人主義と協同主義
① 社会を離れては個人の自由は抽象的なものに過ぎず、また個人の自由を認めない社会は真に自由な社会とは言いえないのである。
② 協同主義は個人主義に反対してその社会的立場から特に人倫的関係を重んじる。
③ 今日の日本において必要とされる革新は一方封建的残存物を清算すると同時に他方個人主義や自由主義を超えた一層高い秩序を建設するという二重性のものである。
階級主義と協同主義
① 階級主義は、階級を超えた全体を認めないことにおいて個人主義と同じである。
全体主義と協同主義
① 全体主義は個人主義に対立し、個人主義と同様に抽象的である。
② 協同主義はそれらの抽象性を共に斥けて、あらゆる歴史的なものは時間的であると共に空間的であり、空間的であると共に時間的であると考える具体的な立場に立つのである。
協同主義の本質
① 協同主義は個人主義と全体主義とを止揚して一層高い立場に立つものである。
指導者の理念
① 協同主義の歴史観は、唯物史観と観念史観とを止揚したものであると共に、英雄主義的歴史観と集団主義的歴史観とを止揚したものである。この止揚は指導者の理念において行われるのである。
② 協同主義は機械的なデモクラシーの協同を説くのでなく、かえって指導者の理念によって真の協同が実現されると主張するのである。指導者の理念は一団体、一民族の内部において考えられるのみでなく、庶民族の間においても認められねばならぬ。
③ 一君万民、万民輔翼の思想によって古来協同主義を実現してきたのであるが、この精神を完全に発展させることによって日本のかかるイニシアチブを取り得るのである。