よくテレビなどで、チャチャッと不鮮明画像を鮮明化させる場面がある。
一般の方は、簡単にできると思われるようで、依頼が舞い込む。
テレビの場合、予め鮮明な画像を劣化させて、逆再生しているに過ぎない。
つまり、劇用効果というもので、現実とは大きく異なる。
画像鮮明化処理について実例を示す。
前掲画像は、ネットで拾ったものだ。
赤矢印で示した部分を、単純拡大させたものが下掲の画像である。
モザイク状に見えるのが画素である。
なんとなく、オッサンらしき人があるのはわかるが、詳細については判読できない。
そうした場合、画素間の色境界をぼかしてやると眼鏡をかけたオッサンが見えてくる。
また、背景には、横向いた髭のお兄さんの表情も見えてくる。
鮮明化と「ぼかす」行為は、一見すると真逆に見えるであろう。
ところが、人間は不鮮明なモザイク状の画像を見るとき、目を細める。
これは、余分な色境界という視覚情報をカットして、実像を掴もうとする脳の働きに由来するものだ。
画像鮮明化処理とは、その脳の働きをデジタル的に再現しているだけである。
下掲の画像を目を細めて見て頂きたい。
双方が同じ画像に見えるはずだ。
画像処理を端的に言えば数学だ。
隣接する画素の色と色が正規分布する、すなわち平均値の付近に収束させたものである。
この手法をガウス分散処理という。
ところで、我々は多くの画像をデジタル処理して鮮明化させてきた。
こと、鮮明化に関しては、同業他社に引けを取らないと自負しているが、どうしても敵わない相手がいる。
それは、印刷屋や、デザイン事務所のオッサンやおばさん達だ。
同じ機器やソフトを用いて、何度やってみても彼らの方が何倍も見やすい画像を作り上げる。
学生時代、微分積分などは習うことは習ったが、右の耳から左の耳に抜けた方達のようだ。
数学的な質問をしても、頓珍漢な答えしか返ってこない。
当然、画像の鮮明化処理でも数学的な事は考えていない。
マウスを巧みに動かしながら、こうやって、こうやって、こう・・・・・
長嶋茂雄を会話している気分だ。
しかし、彼らは我々よりも格段に見やすく綺麗な画像を仕上げる。
彼らは、客が印刷物をどう見えるか・・・・という顧客目線に重きを置く。
言い換えれば、他人様の脳は印刷物をどのように見ているかに傾注していることになる。
画像を最終的に、認識して判断するのは脳だ。
彼らは、理論ではなく、場数と競争の中で最適化された処理を身につけている。
いわば、生き残る上で身につけたプロの技術だ。
我々が、鮮明化処理で、彼らに敵わないのは、当然といえば当然かも知れない。
*************************************************************
FAL 代表理事 石橋宏典