石橋宏典は本当に有罪か? 同姓同名者が起こした事件の傍聴録4@福岡 | 事件鑑定人のブログ@鑑定人イシバシ

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私が事件鑑定人としてこれまで経験したことを書きます。
特定を避けるため、一部、ぼかしたりフェイクもありますが、概ね実体験です。




被告人質問で石橋宏典は事件の経緯を語った。


 a その日、被害者を認めキスをしたいと思ったことは事実だ。
 b 相手の髪に触れたがキスはしていない。
 c 警察が再現した、人形を使った犯行態様は誤りである。


bcについて物理的には正しいことは前々回のブログで述べたとおりだ。
しかし 「a被害者を認めキスをしたいと思った」 というのはあり得ない。
私は、事件の一報を聞き「石橋宏典」について情報収集している。
詳しいやり方は割愛するが、事件鑑定人という仕事柄、全国の各地に協力者がいる。
知己を頼りに、聞き込みを繰り返せば、たとえ遠方であっても報道された事件の核心に迫ることはさほど難しくない。
そこで得られた彼の情報は意外なものであった。
どの系統から調べても、「石橋宏典」は人望が厚く、清貧な人物であり、とてもそういった行為に及ぶとは考えられないといった情報が多くを占めたのである。
念のため、私は彼の職場に市民を装って電話で当ててみた。
「石橋宏典はやってないよ」
私は電話口でそう呟いただけなのに、電話口に出た青年は
「そうですよね! きっと間違いですよね!」
と捨てられた犬が飼い主を見つけたような喜びようが電話口から伝わってきた。
ここまで部下から慕われる上司はなかなかいない。
私が、石橋宏典が 「a被害者を認めキスをしたいと思った」 というのがあり得ないと感じた理由である。

話が少し逸れたので裁判に戻す。

被告人石橋宏典はぽつぽつと事件の経緯を証言していった。


 d 連日の取り調べで神経が参っていた。
 e 相手方と早く示談して被害届けを取り下げてもらいたいと考えた。
 f ところが警察は自供しなければ相手先について教えられないといわれた。
 g 相手方と示談したい一心で自供した。
 h 被害者には現金800万円をもって謝罪に行った。
 i その800万円野一部は、子供の将来のために貯めていた金だ。
 k それでも足りなくて夫婦それぞれの実家から借りてかき集めた。


淡々と話す石橋宏典は、800万円の話になると嗚咽混じりとなった。
公務員とはいえ、一介のサラリーマンがこれだけの金を用意するには相当にきつかった筈だ。
800万という金額自体が法外である。
この金額は自身で積極的に用意したというより、被害者側から暗に金額の提示があったとみる方が合理的だ。


 j その金を持って被害者の保護者に謝罪に行ったが、 「全然足りない」 といわれた。
 k 「親類縁者の家や財産も処分して3000万もってこい」といわれた。


法廷内が絶句した。
800万でも法外であるが、さらにその上の金額を提示したのである。
その他にも、九州外に転居しろだの、無理難題はいくつもあったが、3000万という要求金額に法廷が凍った。
裁判長も、絶句し聞き直した。


そもそも、この程度の事件であれば一旦逮捕はされる。
ただし、当事者間で示談がなされ罰金刑で済むことが多い。
中には、被害が取り下げられ起訴すらされないこともある。
公判が開かれたこと自体、私にとって謎であったが、これで謎が解けた。


ただし、彼の「g 相手方と示談したい一心で自供した。」との証言は、ある意味危険な賭である。
刑事裁判では、否認すること、そして供述を変遷させることは被告人にとって著しく不利な要素だ。

暗に、犯行を否認することとなり、「反省の色なし」と捉えられるからに他ならない。

つまり、ここで素直に犯行を認め、反省の意を表していれば罰金刑で済む可能性はあった。

それでも、被害者から3000万を要求された経緯については法廷で話しておかなければならないと彼は考えた末の発言であろう。


また、先のブログで感じていた違和感も解けた。
http://ameblo.jp/ishibashi-kantei/entry-12079791904.html

自称被害者は、意図的に会釈するなどし、自ら誘って犯行を惹起させたのではないかとすら勘ぐってしまう。
確かに穿った見方ではあるが、請求した3000万という金額を考えれば、成り立たない考えではない。

むしろ、犯罪の収益性という観点からみれば十分成り立つ。


逮捕までの間、僅か55日。年末年始を挟んでいることを考えれば、スピード解決であることも、被害者側が尾行するなどして警察に情報提供しなければ到底無理な日数である。
決められたスケジュールで動くサラリーマンを尾行することは容易い。
また、被害の申告が学校経由でなされたことも合点がいく。
被害者自身が申告したところで警察から相手にされないことを危惧したのでなければ、この様な遠隔操作は必要ない。
もしかしたら、犯人の尾行は学校関係者に行わせたのかもしれない。


警察がモニター画面を撮影しただけの雑な証拠保全は、被害者との示談を目していたからとも取れる。

つまり、どーせ被害届けは取り下げるだろうから・・・・といった空気が生安内部にあったのであれば説明が付く。


冤罪と悪の温床のように警察を酷評する御仁も少なからずいるが、現場の警察官は存外情があり、必ずしも被疑者を罰することを目的とはしていない。

特に初犯の被疑者の更正には細心の注意を払う。

これは、更正できなかった人間は再犯者となって、警察の手を煩わせる。

このことを操作の最前線で常に体感しているからに他ならない。


学校からの被害申告という報道発表も、暗に「被害者単体では申告を受け付けないような人ですよ」との意を込めていたともとれる。
いずれにせよ、福岡県警の形ばかりの雑な証拠保全は、被害取り下げが念頭にあったからと認めて矛盾はないだろう。

つまり、逮捕はしたものの、公判は視野に入れていなかったはずだ。


ただし、もう一人の石橋は一審・二審と何れも有罪となり、現在では刑が確定して失職した。
仮に、彼が犯行を認め狡く立ち回ろうと思えばできた筈である。
3000万払うと約束だけして、被害届けを取り下げさせた後に踏み倒す方法などいくらでもある。
民事においては契約書ですら紙切れだ。
裁判では契約書があっても水掛け論に終始することも珍しくない。
水掛け論の勝者は金を払う側だ。
のらりくらりと狡く立ち回れば何とかなる。
ただし、これはヤクザのやり方だ。
もう一人の石橋宏典はこれを良しとせず正々堂々と戦った。
自らが盾となっても自称被害者との悪縁を裁ち切り、家族と親類縁者を守り抜いたことになる。


ここで、このブログタイトル「石橋宏典は有罪か」という表題に立ち返る。

確かに彼は有罪だ。
ただし、 石橋宏典は無実 である。