「手首を切って。」



私を好きだという、私が好きな人は、そう言ってカッターナイフを差し出しました。



新品の、ピンクのプラスチックに包まれた薄い金属。



カチカチカチ



音がして、鋭い断面があらわになる。



私は白くてやわらかい、自分の手首にカッターをあてて、すっと横に引きました。



血はあんまり出ませんでした。



ただ、ジンジン広がるような熱い痛みだけを感じました。



人によってはガス抜きになるというその行動は



私には到底理解が及びませんでした。



「痛いだけだよ。」



手首を切るのを眺めていた人は笑って、その手首に唇を寄せました。



「いしゃ、好きだよ。」



「うん…」



手首を切るような人も理解できませんでしたが



それを他人に求める人も、到底理解できないなぁ。



タバコの味がするキスを受けて、犬のようにくしゃくしゃと頭をなでられて。



本命じゃないのは知っていました。



遊びでしかなくて、私がある日突然いなくなったとしても、この人は傷つきもしないんだと知っていました。



「わたしも、すきだよ。」



いつかいいように、捨てられるその日までは。



なぜ、そうまでして恋焦がれたのか、今でもわかりません。



それが恋だとしたら、なんて、暴力的で、残酷な感情だったのでしょうか。