この二つは、別のものです。
でも私はアリスさんに言われた
「結婚しよう。」という告白を
どちらの意味にもとっていませんでした。
次の日、いつもどおりバイトを終え、ゲームをつなぎました。
入ってすぐにwisが届きます。
「いしゃさん、いまなにしてるの?」
もうその頃はwisがアリスさんから届くのは珍しいことではありませんでした。
「今○○のダンジョンでソロですよー」
当時マジシャンからウィザードへの転職を終えていた私
もともとソロプレイヤーで、溜まり場へは戻らず、一人でダンジョンにこもるのが日課でした。
「そぉなんだー、じゃぁ支援しに行こうか」
「いやいや、悪いからいいですよー」
この頃からでしょうか。
アリスさんは私がソロで遊んでいると必ず支援しに行こうか。と言ってくれました。
レベルに差のありすぎる私は、いつもいらないと断っていました。
アリスさんは仕方なさそうに手伝うことをあきらめて、同じウィザードで効率のいい狩り方や装備を教えてくれました。
ある日溜まり場で、アリスさんとそのことについてしゃべっていると。
「いしゃんはそんなこと、もう知ってるだろ。」
アリスさんが説明していたことにかぶせて、発言してきた人がいました。
彼のキャラクターは高レベルのナイト、名前は「ケイト」
実はというと、彼にも別キャラでwizがいたため、たまに高レベルの狩場に連れて行ってもらっていました。
「いしゃは初心者」だというのは溜まり場で誰もが知っていたので、みんな親切に教えてくれていました。
私としては、たとえ同じことであっても、教えてもらえるのであれば、そんなことでも耳を傾けたかったのですが、
彼にとってそれは、時間の無駄に思えたようです。
「そうなの?いしゃさん」
「あー、この前ケイトさんに連れて行ってもらったんですよ。」
アリスさんは少し複雑そうにしていました。
アリスさんも、ケイトさんも、ゲームを始めたのはずっと前で、とてもプレイは上手でした。
けれど、どちらもが私より年下でした。
『知識のある事柄を誰かに教えたい。』と思うのは普通ですし、それを教えてもらえるのはうれしいことです。
年上ぶるつもりもありませんでしたが、どちらの顔も、立ててあげたかったのです。
「それよりいしゃん、○○の新曲聴いた?」
ケイトさんとはゲームよりもリアルの話でよく盛り上がりました。
聞いているジャンルの音楽が近かったので、いろんな曲を教えてもらいました。
「もし会うときがあったら、CD焼いていってあげるからw」
もしも会うことがあったら。なんて話まで出る始末で
それでも悪い気はしていませんでした。
比べてアリスさんとはゲームの話題ばかりでした。
基本的に自分のことを話さない私は、彼の聞き役に回り、彼がリアルの話題に触れても、自分のことを話すことは余りありませんでした。
そうです。
今思えばあのプロポーズは
お互いがお互いをあまりに知らない時期の出来事でした。
リアルの事情も、価値観も、何もかも。
「いしゃさんは、私といるよりほかの人といるほうがいい?」
ある日、ギルド狩りを終えたあと、アリスさんはそうwisでささやきました。
どういうことか、私にはわかりませんでした。
「どうして?」
「ケイトさんとか…ほかの人といるときのほうが楽しそうだし…」
「んー。でもキスエモ出すのは、私アリスさんだけだよ。」
「え、」
「結婚してほしいって言ってもらえてうれしかったよ。」
「そっか」
「でも、私オンラインで特別な人を作るつもりはないんだ。」
リアルには、私が支えてあげなければならない人がいました。
アリスさんにしても、ケイトさんにしても
オンライン上の顔も知らない誰かに、心を裂いてはいられない。
その時の会話に、アリスさんは安堵したでしょうか。
それとも、絶望したのでしょうか。
今となっては確かめることもできません。
参加中よろしくお願いします。