実際には疫病除けのご利益がなかったかもしれない人魚の瓦版ですが、流行するにはそれなりの理由があったはずなので、それをみていきたいと思います。
瓦版の人魚にはどれも魚の身体と人間の顔がついていて、魚と人間の中間的な存在になってます。
人魚は大海原の自然界に生息していますが、同時に人間界に何らかの働きかけをしています。
1の巨大人魚は、人間に対して攻撃的で荒々しい大自然の脅威を表現していますが、上手に利用すれば海の幸などの限りない自然の恵みをもたらしてくれます。
2の神社姫は、自然界の住人ですが、龍宮からの使者として疫病流行の予言をし、さらに除災方法も伝えます。
神社姫のように、異界の住人が人間界に現れ人々を救うというテーマはアニメやテレビ番組でよく使われていて、幽霊族でありながら人間たちを助けて妖怪と戦う初期のゲゲゲの鬼太郎や、宇宙人でありながら侵略する異星人から地球を守るウルトラセブンとかにもあらわれています。
江戸時代は人と自然界の生物とが最も激しくぶつかりあった時代でした。
江戸の都市開発によって人口が増え、森林を伐採し河川の流路を変え、町が拡大していきます。
宅地造成は自然破壊の原因となり、そうしたところに住んでいた狸や狐は人里に降りてきて人間たちをたぶらかします。
森や林に住む木霊や鹿やイノシシ、河川に住む水霊や魚たちも住処を奪われ、妖怪変化となって人々を驚かせます。
こういう自然界と人間界との葛藤が、人魚のような魚と人との合体を生みだした要因だったのかもしれません。