Y嬢がお腹がすいたというので、私たちは参道を横切り、食事処に向かった。

「あっ、閉まってる~」

彼女が悲鳴のような声を上げた。

話によると、そこは世界のソムリエ田崎真也氏がオーナーのイタリアンのお店で、参拝がてらひそかに食事をするのを楽しみにしていたらしい。

しかし、ランチとディナーの間の時間だったらしく、お店は準備中だった。

オープンテラス席の前の神社の境内は広々としていて、ゆったりとした時間が流れている。


周囲は緑が生い茂り、高層ビルもあるので、今はもうすばらしい眺望は期待できないが、江戸の昔には東京湾や遠く房総半島まで望めたという。

春の桜、夏の蝉しぐれ、秋の紅葉、冬の雪と、四季折々の見晴らしを江戸の庶民は楽しんだ。

明治になってこの愛宕山の頂上に、八角形のレンガ造りの五階建ての貸座敷
「愛宕館」が建てられた。
入場料を払えば塔上に登れ、さらに高所からの眺めを楽しめたが、関東大震災により倒壊、焼失したという。