Netflixで「ヤーラ」（2021年）を見る。2010年にイタリアで実際に起こった少女殺害事件を題材にしたミステリ映画。

ミラノ郊外の小都市でヤーラという名の少女が失踪する。ヤーラは新体操を習う13歳の少女だった。失踪から3ヶ月後、ヤーラの惨殺遺体が発見される。事件を担当する女性検事のレティシアは、遺体に付着した犯人の血液からDNAを採取。犯人特定は時間の問題と思われたが、捜査は難航する。

派手な銃撃戦やカーチェイスなどない映画だが、探偵役の女性検事がジワジワと犯人に迫っていく様が丁寧に描かれ、サスペンスを高めることに成功している。本作の面白いのは、DNAによる犯人特定に一捻りある点で、実話に基づくとは言え、さもありなんという展開が描かれる。ちょっと驚いたのは、捜査当局の盗聴や違法捜査が平然と行われる様が描かれる点で、イタリアではこのような捜査方法が当たり前なのだろうか？

映画では、少女の殺害犯人を追う捜査官を一人の女性検事に限定して描いているが、実際には複数の捜査官が存在したにちがいない。映画はそういう複数いた捜査官を一人の人間に集約させているわけである。それは「ゼロ・ダーク・サーティ」（2012年）が、ビン・ラディンを逮捕すべく捜査に奔走したたくさんの捜査官を一人の女性に限定して描いたのと同じである。なぜこういう脚色が必要かと言うと、観客が混乱せずに物語を追うための配慮である。

そのような作劇の原点は「仮名手本忠臣蔵」なのではないかと思う。言うまでもなくこの作品の元になった事件には47人の赤穂浪士が登場するが、そんな大人数を描くのは作劇上、得策ではない。本作において主人公の大星由良之助（大石内蔵助がモデル）以外の赤穂浪士を代表するのは、早野勘平（萱野三平がモデル）である。このようにして劇作家は物語をよりわかりやすく観客に提示しようとしているわけである。

話を「ヤーラ」に戻せば、主人公を女性検事にしたことで、後半の三分の一を使って描かれる裁判場面でも主人公は活躍することを可能にしている。主人公を刑事にすると、裁判において主導権が刑事から検事に移行することになるので、こういう風に展開できない。つまり、本作は複雑な事件をより簡明に描く工夫を施しているのである。

✵同作。（「シネマカフェ」より）

少女殺害事件〜「ヤーラ」