・・・でとうございます | 高橋いさをの徒然草

・・・でとうございます

2019年も明けてすでに10日、正月気分はすでにまったくない。にもかかわらず職場などで今年、初めて顔を合わせる人には儀礼的に「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」と挨拶するのが普通である。そう思ってはいるが、正月気分はまったくない状態なので、どうしても「明けましておめでとうございます」と言えずに「・・・でとうございます」という感じで「明けましておめ」という部分を飲み込んでしまう。続く「今年もよろしくお願いします」の方はすんなりと出るのだが、どうしても「明けましておめ」が出ない。

元旦の朝、初日の出の光を浴びながら着物に着替えた状態においてなら、張った声で「明けまして、おめでとうございます!」と言えるのだが、正月気分がまったくない状態で、この台詞はなかなか言いにくい。その場違いな感じがわたしの「・・・でとうございます」の正体である。こんなことに戸惑いながら、毎年、わたしはこの中途半端な時期をやり過ごす。この中途半端な感じは、例えば、招待された結婚式場でなら、新郎新婦にはガッチリと握手して「結婚、おめでとう!」とハッキリと言えるが、新婚旅行から帰ってきて、近くのスーパーマーケットで買い物している二人に偶然出会った場合、同じように「結婚、おめでとう!」とは言いにくいのと同じである。つまり、「おめでとう」という言葉は、"ハレ"の場の言葉であり、"ケ"の場で使うと違和感があるのだ。

まあ、こんなことに悩んでいるのは、社交性に著しく乏しい劇作家・演出家だけかもしれないが、年が明けてしばらく経ったこの時期、わたしのこんな悩みはピークに達する。大袈裟に言うと、人に会うのが苦痛になる。だから、早くこの中途半端な時期が過ぎないかなと思いながら毎日を送っている。しかし、わたしと同じような悩みを持つ人も案外多いのではないかとも思う。だってそうではないか。めでたい雰囲気がまったくない環境において「おめでとうございます!」という言葉を使うのはとても難しいのだから。

※新年のご挨拶。(「illust images」より)