償い | 高橋いさをの徒然草

償い

昨年、東名高速道路で無茶な煽り運転によって家族連れの車を停車させ、そのために後続のトラックが激突して家族連れを死傷させ「危険運転致死傷罪」で起訴された男の裁判員裁判で、「どのように遺族に償いをしていくつもりか?」と問われた男が「わからんです」と答えたという記事をネットで読んだ。

この事故は、パーキングエリアにおいて駐車をめぐる些細なトラブルから被告人の男が家族連れに激昂、高速道路上で被害者のワゴン車を煽り運転をして停車させ、難癖をつけている最中に後続のトラックが被害車両に激突して、ワゴン車に乗っていた父・母・長女・次女四人の家族のうち、父と母を死亡させたものである。状況から判断すると、加害者の男が取った短絡的で愚かな行動が、まったく落ち度がない家族を一瞬にして死傷させた何ともやりきれない事故である。

加害者の男は、普段から「キレやすい」性格を持っていたらしく、似たようなことはが過去にも何度かあったらしい。まあ、男も、まさか自分の行動が死亡事故を起こすとは想像できなかったのだとは思うが、結果の重大さから判断すれば、最大限の刑罰に値するとわたしは思う。彼は自分の一時の自分勝手な憤怒の感情から一つの家族を崩壊させたのだから。

遺されたのは高校1年の長女と小学6年の次女であるという。償いについて「わからんです」と答えた被告人の男がこの二人にできる償いとは何だろう?   交通刑務所に服役している間、刑務作業によって得た報酬のすべてを、出所後は、就いた仕事により得た報酬のほとんどすべてを二人の遺児たちの教育費・生活費に費やすということであろうか。つまるところ、わたしにはそのくらいのことしか思い浮かばない。毎月、亡くなったご夫妻の墓に出向き、謝罪を続けることも一つの償いではあると思うが、それでは遺族たちは納得しないにちがいない。加害者の男は、遺族に対して最大限の償いをする義務があると思うが、それでも「わからんです」と答えた男の気持ちもわからなくはない。結論を言えば、彼の罪はどんなに努力しても、決して償えないからである。本当の償いとは何なのだろう?

※東名高速道路。(「川崎市宮前区」より)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
ISAWO BOOKSTORE vol.1
「好男子の行方」
作・演出/高橋いさを
●2018年12月12日(水)~18日(火)
●オメガ東京(荻窪)