都会の魅力 | 高橋いさをの徒然草

都会の魅力

田舎と都会とどちらが好きかと問われれば、わたしは都会が好きである。田舎には田舎のよさがあることはわたしなりに理解はできるが、住むとなればやはり都会がいい。そもそもわたしが生業(なりわい)とする演劇というものは、田舎ではなかなか成り立ちにくい種類のものである。演劇を演劇として成立させるためには、まず人がいっぱいいる場所でないとダメなのである。だから、都会はそういう条件を満たしている点が魅力的である。

「夜中の3時に蛎殻(かき)が食える」

犯罪アクション映画「影なき男」(1987年)の中に出てくる印象的な台詞である。この台詞は、山岳地帯に逃げ込んだ殺人犯を追う都会の刑事(シドニー・ポワチエ)が、案内人の山男(トム・ベレンジャー)に都会の魅力を語る場面で語られる。都会の魅力は様々だが、こういう言葉でそれを語っているところが面白い。

これとちょっと似ているニュアンスの場面をわたしはもう一つ知っている。テレビ・ドラマ「古畑任三郎」の中のエピソードである。ドラマの内容は正確に覚えていないが、古畑警部(田村正和)が田舎町で起こった殺人事件を解決する一編で、古畑警部が田舎の生活に辟易(へきえき)して、都会のレストランで「チョコレート・ソースがかかったパンケーキ」をおいしそうに食べる場面があったと記憶する。警部はそれを食べながら「やっぱ都会はいい!」というようなことを言う。都会=チョコレート・ソースがかかったパンケーキというイメージがわたしにはしっくりきて印象的だった。「影なき男」風に言うなら、こういうことか。

「夜中の3時にパンケーキが食える」

わたしも、そういう都会の恩恵に与り、蛎殻やチョコレート・ソースがかかったパンケーキを食べている。必ずしも夜中の3時に限定されるわけではないが。

※チョコレート・パンケーキ。(「MACARONI」より)