真っ当な家族愛~「まっ白の闇」 | 高橋いさをの徒然草

真っ当な家族愛~「まっ白の闇」

吉祥寺のココマルシアターで「まっ白の闇」(2018年)を見る。俳優の内谷正文さんが監督した薬物依存の弟をめぐる家族の再生物語。本作は内谷さんが演じ続ける一人芝居の内容を劇映画として再構成したものと聞く。内谷さんは8月にわたしが演出として関わった「売春捜査官」でご一緒した俳優さんである。

恋人の裏切りをきっかけに覚醒剤に手を出し、薬物依存から抜け出せなくなった若者。彼の兄を初めとする家族たちは、弟を何とか薬物依存から救うべく同じような問題を抱える人たちによる家族会へ参加する。そして、弟は茨城にある更正施設への入所を経て再生のきっかけを掴んでいく。

内谷さんご自身が体験した実話を元に作られた映画であると聞くが、実話ならではのリアリティーに満ちたストーリーである。幸いわたしの人生には、薬物依存というようなエピソードはまったくなかったので、新しい世界を見せてもらった気分になる。先日、福岡で起こった看護婦たちの保険金殺人を扱った「黒い看護婦」(新潮文庫)を取り上げた際に、そのタイトルの秀逸さに言及したが、本作「まっ白の闇」というタイトルは、その反対バージョンと言うか、覚醒剤の恐怖を的確に表現しているよいタイトルだと思う。

実話ならではのリアリティーと書いたが、主人公の青年が幻覚で見る"破壊の少女"(?)を登場させ、弟と対話させるという演劇的な手法が面白い。薬物依存に陥った弟をめぐる家族の再生物語ではあると思うが、薬物依存を別の問題に置き換えたとしても、成り立つ物語であるという意味では、普遍的な家族愛を描く映画であると思う。つまり、本作は非常に真っ当な内容を持っているということである。

強いて言えば、その真っ当さがひねくれもののわたしにはちょっと物足りなくも感じなくはない。もしも薬物中毒の弟がその力を借りて誰かを殺害してしまったら、家族の絶望はもっと深く、悲惨なものになるのだから・・・。いや、そんな大仰な設定は、本作の慎ましやかな魅力を損なうのかもしれない。いずれにせよ、商業映画ではなかなか描きにくいこういう題材を扱って、更正の希望を描き、広く観客にアピールすることは社会的な意義があると思う。朝からの上映なのに劇場は満席である。

※同作。(「映画.com」より)