1968年 | 高橋いさをの徒然草

1968年

稽古中の「好男子の行方」は、1968年(昭和43年)が舞台の芝居である。「稽古場より①」にも書いたが、この年に公開された洋画は「俺たちに明日はない」「2001年宇宙の旅」「猿の惑星」「卒業」などである。つまり、アメリカン・ニューシネマの胎動期。これらはみな有名な映画だが、それ以外の1968年の公開映画について書く。

●「暗くなるまで待って」
フレデリック・ノットの舞台劇をテレンス・ヤング監督が映画化。オードリー・ヘップバーンが盲目の人妻を演じるスリラー映画。真っ暗闇の中で行われるクライマックスが印象的。

●「華麗なる賭け」
スティーブ・マックイーンとフェイ・ダナウェイ共演によるロマンチックなサスペンス映画。ノーマン・ジュイソン監督がマルチスクリーンを駆使してスタイリッシュな職人技を見せる。

●「さらば友よ」
アラン・ドロンとチャールズ・ブロンソン共演の犯罪アクション映画。ドロンがブロンソンにマッチで煙草の火をつけてやるラストシーンが有名。この頃、フランス映画はアメリカ映画と同じくらい力を持っていた。

●「ブリット」
スティーブ・マックイーン主演の刑事アクション映画。ピーター・イエーツ監督がサンフランシスコを舞台に迫力あるカーチェイス場面を作り上げた。共演のジャクリーン・ビセットが可愛い。

もちろん、わたしがこれらの映画を見たのはこれよりずっと後だが、これらの作品群は1968年の空気を少しだけ伝えてくれる。三億円強奪事件の犯人も、金を奪われた銀行の人たちも、犯人を追う警察も、事件の鮮やかさに驚いた一般の人たちも、それぞれにヘップバーンの魅力にうっとりし、マックイーンの格好よさにしびれ、ブロンソンの渋さに唸り、ドロンの美貌に感心していたのかもしれない。この時代、日本は右肩上がりに高度経済成長を遂げ、経済的な豊かさを獲得していく。わたしと言えば、事件のことなどまったく眼中になく、ハットを被ってピンキーとキラーズの「恋の季節」の歌真似をすることが得意な無邪気な少年だった。

※「恋の季節」のレコード・ジャケット。(「蓼喰う虫もスキヤキ」より)