中野駅 | 高橋いさをの徒然草

中野駅

その人が「都会の人」かどうかを見極める尺度の一つに「地下鉄をきちんと乗りこなせるかどうか」というのがあると思う。都心の地下を蜘蛛の巣のように走る地下鉄の路線を縦横無尽に乗り継いで、目的の場所に最短距離で辿り着ける人は、やはり「都会の人」と言っていいのではないか。かく言うわたしは、必ずしも地下鉄に強い方ではない。

わたしは西東京方面に住んでいるので、日頃、そんなに頻繁に地下鉄に乗っているわけではない。だいたいがJR線に乗ることで事足りるからである。しかし、わたしが使う駅の中で最もややこしいのは、中野駅だと思う。中野駅には都合三本の路線が集中している。JR中央線と総武線と地下鉄東西線である。この三つの路線が別々の乗り場ではなく、すべて同一のホームから発車しているのが中野駅の特徴であると思う。普通、違う路線は、乗り場が別々になっているのが普通だと思うが、中野駅はそうなっていないのである。

今でこそ、その三つの路線を器用に乗り分けることができるようになったが、高校生の頃、中野駅はわたしにとってはある種の"鬼門"だった。落合に行きたいのに総武線に乗って東中野へ行ってしまったり、信濃町へ行きたいのにJR中央線に乗って四谷へ行ってしまったり、東中野へ行きたいのに地下鉄東西線に乗って落合へ行ってしまったり、散々な目にあったからである。なぜこのようにややこしいかと言うと、乗り場がみな同じだからである。高校生の目には、JR中央線も、総武線も、地下鉄東西線もみんな「同じ電車」にしか見えなかったのである。

地方へ行く時以外、ほとんど使うことがないが、日本で一番ややこしい駅は東京駅と上野駅ではないかと思う。これらの駅に乗り入れている路線は三つどころの数ではないはずだからである。若い頃に熱心に読んだ社会学者の加藤秀俊さんの本に「都市とは交通のことである」という一節がありよく覚えているのだが、しかり。都会とは乗り物の交通が激しい場所のことである。同時に人間も。

※中野駅の三種類の電車。(「鉄道新聞」より)