稽古場より① | 高橋いさをの徒然草

稽古場より①

ISAWO BOOKSTORE「好男子の行方」の稽古が始まって数日。本作は1968年に起こった「三億円強奪事件」を題材にした芝居である。と言っても、現金を強奪した犯人側ではなく、金を奪われた銀行側の人々を主人公にしたドラマ。タイトルになっている「好男子」とは、白バイ警官に偽装した犯人を目撃した銀行員たちが、犯人の風貌に関してそのように証言したことに基づいている。今風に言うなら「イケメン」ということである。

1968年当時、わたしは7歳の子供だったから事件のことはまったく覚えていない。この年に何が起こったかを調べてみると、マラソン・ランナーの円谷幸吉が自殺したり、永山則夫による連続射殺事件が起こったりしている。若い人にはまったく馴染みがない人たちだろうが、わたしはちょっとだけ馴染みがある。わたしは自作の中で円谷幸吉さんの印象的な遺書を引用したことがあるし、永山則夫は、裁判における死刑基準を示す「永山基準」を導くことになった殺人犯である。この年に公開された洋画は「俺たちに明日はない」「2001年宇宙の旅」「猿の惑星」「卒業」など。

稽古はオメガ東京で行っている。そう、わたしたちは公演場所で稽古をしているのだ。公演する劇場で稽古することは今までにない初めての経験である。こういう恵まれた稽古の環境が舞台成果に大きく表れるはずだとわたしは思う。通常の場合、公演場所である劇場に小屋入りするのは、初日の一、二日前だが、そういう時間的制約ゆえに俳優の身体が"空間に馴染む"までに時間を要する。その空間にわたしたちは本番の一ヶ月も前から身を置いているのである。"我が家"がそうであるように、その空間を支配するのは、その空間にどれだけ長く身を置いて時間を過ごしたかである。住み慣れた"そこ"では、暗闇の中でさえつまずかずに移動することが可能なのである。わたしたちが置かれた環境を特権的状態と言わず何と言おう。

※稽古場にて。

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【公式HP】

「好男子の行方」のチケットは発売中。以下のURLより予約を承ります。

ご来場を心よりお待ち申し上げます。